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文化的植物資源としてのワサビの保全学的研究
‐京都府南丹市芦生わさび祭り開催地区を事例に‐

山根 京子、山口 博志(岐阜大学応用生物科学部)


芦生地区では毎年4月10日に「山葵祭り」が開催されます。ワサビといえば静岡県や長野県などの有名な産地を想像される方も多いかもしれません。京都府南丹市に位置するこの地では山岳信仰の神事として山葵祭りが開催されてきました。文書による記録が乏しいため、祭りが始まった正確な年代はわかりませんが、日本民俗学の租・柳田國男の著書である『山村生活の研究』(1937)のなかで、「知井村の熊野様は舊(旧)三月十五日に山葵祭とて頭家が山葵と酒一升を供へる祭儀を行うが、それ迄は山葵を一切食べてはならず、食べると罰が当たると信じている」と紹介されています。

山葵祭りは冬季の熊狩りの安全を祈願してワサビ断ちをした後のワサビ採集の解禁日とされ、祭りでは芦生の自生ワサビが食されてきました。ところが最近、この山葵祭りで供えられるワサビが、芦生地区で深刻化するシカによる食害により劇的に数を減らし、かわりに栽培ワサビが祭りで用いられていることがわかったのです。そこで我々は、文化的植物資源としてのワサビの復興と山葵祭りの持続的な開催を目指し、芦生地区におけるワサビの自生状況を調査することにしました。

その結果、調査された芦生地区7地点(研究林外含む)のうち、2地点でのみ芦生の自生ワサビが存在することがわかりました。シカも近寄ることができないほどの険しい崖にしがみつくように生育するワサビも、DNA分析により栽培ワサビの逃げ出し個体である可能性が高いことが判明するなど、早急に自生ワサビを保全する必要があることがわかりました。そこで、芦生地区の集落に近いX谷(保全のため仮名称とする)を優先ワサビ保全地区と定め、ワサビの自生状況やフロラ調査を行いました。

X谷にわずかに残された4個体の自生ワサビはDNA分析の結果、全て芦生自生タイプであることがわかりました。さらにこの谷はシカの食害が著しい芦生地区において、植物の多様性が維持されている貴重な場所であることも明らかとなったのです。X谷のワサビ個体増殖と周辺植物の保全を目的として、2016年3月、京都大学農学研究科の高柳敦先生と芦生地区の方々のご協力のもと、シカ柵を設置しました。今後はその効果をモニタリングしながら自生ワサビの増殖をはかり、文化的植物資源である自生ワサビの持続的な利用に向けた取り組みを検討したいと考えています。

図1 X谷で発見した芦生自生ワサビ(矢印)
2016年6月15日
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