少人数セミナー「紀伊半島南部の里域生物相調査」 2003年9月22〜26日

フィールド科学教育研究センター 瀬戸臨海実験所および紀伊大島実験所


 黒潮系の多様な海洋生物が周辺海域に生息する和歌山県白浜町の瀬戸臨海実験所(9月22日〜24日)と照葉樹林に覆われ,古くから独特な半農半漁的生業が営まれてきた串本町の紀伊大島にある紀伊大島実験所(9月24日〜26日)とで動植物の構成を把握し,その生態的文化的位置づけを行うことを授業目的に本セミナーを実施した。参加学生は,受講予定10名中2名が欠席し,経済学部,理学部,薬学部,工学部および農学部の5学部からの合計8名であった。

9月22日(月):13時に瀬戸臨海実験所に集合,ガイダンスの後14時から17時まで観測船「ヤンチナ」に乗船し,海洋観測と河川水の影響が異なると考えられる2地点のSTDによる海水の塩分濃度および温度の鉛直断面の観測と動物プランクトンの採集をおこなった。直前に台風が通過したためSTD観測ではたいへん深い混合層を観測することができた。夕食後にプランクトンの観察を行い,場所による群集組成の差異を明らかにした(講師:白山義久,久保田信)。
9月23日(火):午前中に干潮時の潮間帯域の生物相調査(磯観察)を行った。通過台風の影響により,潮間帯上部の生物の多くが流失していたが,潮だまりの各種カイ類,ヤドカリ類,ウニ類,エビ,カニ,ウミウシの仲間などを観察した。観察場所は温帯域にあるが,タカラガイ類やサンゴなど黒潮の影響により分布する亜熱帯性の動物も数多く観察された(講師:大和茂之,田名瀬英朋)。
 午後には,磯観察時に採取したムラサキウニを受精させ,顕微鏡で受精卵の細胞分裂・細胞分化など発生過程を観察した(講師:宮崎勝巳,和田洋)。
9月24日(水):9時〜11時に,前日に引き続きムラサキウニの発生過程を追跡し,初期の骨格や消化管を観察した(講師:宮崎勝巳,和田洋)。
 11時〜13時に自動車で紀伊大島実験所に移動した。簡単なガイダンスの後に,14時〜17時に島内須江地区における植生および植物観察を行い,実験所に戻り紀伊大島における民俗植物学と翌日の調査戦略の説明を行った(講師:梅本信也)。
9月25日(木):2人ずつのチームに分かれ須江地区において「里域生物相と住民との関係の調査」および「里域生物と住人との関係における歴史的変容調査」を行った。秋雨前線による降雨の中であったが,受講生は元気一杯であった(講師:梅本信也)。
9月26日(金):前日の調査のまとめを行いレポートを作成した。

多岐にわたる学部からの受講生であったが,いずれも熱心な姿勢をみせてくれ嬉しかった。本少人数セミナーは,2箇所で行い,いずれも盛りだくさんな内容であったが,実習内容以外にも参加者が南紀の自然に親めるゆとりを工夫する必要があると思われた。
  (文責 山河重弥)




− 実 習 の 様 子 −


観測船「ヤンチナ」 プランクトン採集
生物相調査(磯観察) ムラサキウニの受精
自炊の様子 紀伊大島での調査