平成19年度 少人数セミナー「海岸生物の生活史」報告

2007年 5月 5日

講師:フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所
海洋生物系統分類学分野 准教授 久保田 信

 11名(理1男2女、農3男、総人1男、医2女、法2女)の参加で、自然環境に恵まれ風光明媚な白浜町(和歌山県)に所在し、無脊椎動物や魚類の飼育展示で日本で伝統ある水族館(開館77年)を有する瀬戸臨海実験所の周囲の海岸において、実地授業を実施した。主な講義・実習の実施内容は:(1)知られざる無脊椎動物の海洋での多様性の解説と、固定標本をはじめビデオや図鑑などでの学習;(2)プランクトンの観察(瀬戸臨海実験所北浜で、プランクトンネット曳きサンプルを、ラボで2種類の顕微鏡で観察・スケッチ・同定など);(3)漂着物調査(番所崎・実験所の“北浜・南浜”で採集後、観察・スケッチ・同定など);(4)磯観察(番所崎はじめ白良浜と瀬戸漁港の間にある磯に生息する生物の観察・スケッチ・同定など);(5)磯で観察できない動物群の観察(水族館で飼育展示中の様々な分類群の形態や行動の観察とスケッチなど);(6)瀬戸漁港での動物観察 ;(7)反省会・オリジナル曲、♪「地球の住民動物篇」、♪「ベニクラゲ音頭」、♪「エデイアカラのクリ−チャ−」を含む海洋生物曲の紹介。多様な動物群を自然にあふれた現場で実地実習する有効性はもとより、専攻の異なるもの同士が寝食も共にし、整った設備と廉価な宿泊施設使用料の滞在費の負担(1万円)は決して重くない。日本最古で質のよい温泉で、フィ−ルドワ−クの疲労も吹き飛ばせるメリットもあった。

 少人数セミナ−に関するアンケ−トに示された学生4名の感想の一部を紹介する。「期待以上に濃い生活を送ることができ、非常に充実感があった」。「普段ではできないことをたくさん体験することができました。自然が豊かでのんびりし、久しぶりに潮風にあたって気持ちがよかったです。見過ごしがちな動物たちにも生活があって説明してもらえてよかったです」。「また、やりたいです」。「めエ-ちゃ!!楽しかったです。たくさん歩けていい運動になりました。本当にこのゼミを取ってよかったです」。

講師から受講生へのメッセージ

 全日、天候に恵まれ、穏やかで暖かく、微小生物から肉眼でわかる大形動物まで、多様な海産無脊椎動物や魚類など、多彩な顔ぶれを観察できました。水族館では、刺胞動物門を代表として、分類と進化について解説しました。中でも、複雑で唯一無二の神秘の生活史を送るベニクラゲに焦点をあてました。また、水族館で海辺で見られなかった多数の動物達を、展示ラベル・解説なども含めて基礎的な生物学的事項が学習させられました。実のところ、このような実習は、いくら時間があっても足りません。その理由は、生命の母なる海、”宝の海”には、未知な特徴だらけの生物が無数に、多様に、時空的に変化しながら、お互いに影響しあって、存在しているからです。それはさておき、とりあえず、144万種もの動物は最も細分しても、たった41門です。この基礎を得心し、各動物門ごとに綱以下、動物分類の最小階級である種・亜種までも今後は留意し、皆さんのこれからの人生で、地球の同朋者として生きてきている彼らの個々の一生、つまり、配偶子から受精卵・幼生・幼体・成体・老齢体など、「生活史」のことを常に頭におき、個々の個体や種全体のあるいは特定地域の個体群、そして地球全体の現在・ 過去・未来に思いを十二分に寄せて下さい。また、人間以外は非情と言える食う食われるの関係で種の存続が成り立っている「食物網」にも留意し、現存できる“おごそかさ”を十分にかみしめて下さい。なんといっても、人間として生まれた幸せを納得しましょう。

 以上のポイントを常に心得ておくこと、これこそ、人間の義務です。今後も多様な宝のような海洋生物、特に岸辺で出会える様々な生き物に、人生をかけて、あるいは趣味としてでもいいので、めいっぱい親しんでみよう・何かすごいことを究明しようといった思いが多少なりとも芽生えてくれば、本実習に参加した意義があるのです。3大テ−マ:(1)サンゴやサンゴイソギンチャクのように、光合成の活用、応用として人工作製方法の考案による食糧問題の解決;(2)ベニクラゲの神秘の若返りのメカニズムの解明とその人類への応用;(3)南海・東海大地震の予測、これらに加えて、海に潜む生物のさまざまな秘密を発掘・研究・応用する醍醐味も夢にみましょう。

最後に、短い期間でしたが、ともに実習に参加した同級生の学部内・間のよき交流を今後も続行していって下さい。