ポケゼミ報告2013「森里海のつながりを清流古座川に見る」

里地生態保全学分野 准教授 梅本 信也

 2013年8月19日(月)から22日(木)まで紀伊半島南部の古座川流域と串本湾岸域に広がる合計約400km2に展開する里域生態系構成要素連環の実体感を目的としたポケゼミが行われた。文学部、経済学部、理学部、工学部、農学部の1回生、合計8名の男女が参加した。記録的な猛暑ではあったが、期間を通じて天候に恵まれた。和歌山県鳥獣保護区指定の照葉樹林に囲まれた紀伊大島実験所宿泊棟での共同生活は節電、節水、節温を励行しながら、朝晩は緑風によって実に涼しく過ごせた。
初日は京都大学が新人教育用に設置したポケットセミナーの意義と経緯を詳説し、資源博物学的調査方法や調査時の諸マナーの説明を行った。「古座川合同調査報告集・第1、2、3、4、5、6、7、8巻」、「清流古座川物語」、「里域食文化論入門1、2」、「里域震災論入門」、「紀伊大島のイノシシ」、「紀伊半島南端の植物」、調査用地図などの資料や調査用野帳を紹介、適宜配布し、古座川流域と串本湾岸域の概観、地形、気象、植生、土壌、生物相、文化相の概要を把握させた。今年度は古座川下流域の青ノリ漁とその史的生態的変容ならびに串本湾岸域での定置網漁とその生態的変動要因を古座川の水質変容と関連づけて考察させるために、話術を駆使した聞き取りと肌理細やかな観察を調査武器としながら、社会人としての礼儀や作法を実地研修させ、諸要素の通時的、共時的連環を体感させることが主眼であった。
第2日は各班2名からなる合計4班を編成し、古座川河口域の串本町中湊地区や串本湾岸域の串本町樫野地区を2班単位で訪問し、情報提供者ごとの基礎カルテを作成した。こうした調査は学生にとって全くの初体験であり、南紀方言の問題、知識不足、動的会話力の未熟さ、学生同士の心的距離の問題なども相まって最初は明らかな戸惑いがあったが、聞取り相手の心に自己の心を同調させる術を自ら体得し、聞取り技術が急速に向上していった。公用車による移動中の車内では、地域の概要を説明しながら、積極的な仮報告や議論を行った。例年通り、学生の目が本来の輝きを取り戻し、他人への心配りが向上した。
第3日は調査地域を相互に入れ替えた。調査技術は向上、動的会話力が進歩した。午後はデータの総括的整理やレポート作成作業に入った。基礎カルテを集結、全員で取得した情報の共有化を図った。分量はA4のレポート用紙で厚さ2cmにもなった。集成した情報を踏まえて、森里海連環、古座川と串本湾岸域、青ノリ漁、定置網漁、地域性、歴史変容といったキーワードで構成される共同レポートを作成した。教科書的な世界とは異なり、現実の里域フィールドを構成する諸要素は複雑に繋がっており、驚異や多様性に満ち、さらに事実には重層性や奥行きがあることを学生は実体感できたようだった。
第4日目は、宿泊施設の片付け、簡略な報告会、レポートならびにポケゼミアンケート提出が行われ、正午に解散となった。例年通りではあるが、共同での調査作業、共同での宿泊生活を重ねていく過程で、学生の顔や言動にエネルギーが満ちていくのが指導教員として嬉しく思われた。なお、第5日は悪天候のため省略した。本ゼミの活動の一部は2013年8月24日付け紀伊民報4面に掲載された。(2013年8月22日、8月24日追記)