ポケゼミ報告2015「海岸生物の生活史」

基礎海洋生物学分野 准教授 久保田 信


 定員4名のところ4学部から20名の応募があり、各学部学科から1~2名ずつの7名を選抜しました。理1男、経済1男、農1男1女、工1男1女の6名で2015年5月3~6日に本セミナーを実施しました(1名欠席)。自然環境に恵まれ風光明媚な白浜町(和歌山県)産の動物を中心に、85年の伝統ある水族館を有し、1922年開所の瀬戸臨海実験所の周囲の海岸においての実地授業でした。主な実習内容は、(1)海洋生物の多様性の解説(教科書:拙著「宝の海から」)と各種図鑑参考書での学習;(2)不死のベニクラゲの生活史とGFP;(3)漂着物調査(瀬戸臨海実験所“北浜”);(4)磯観察と採集(番所崎);(5)番所山での自然観察;(6)瀬戸漁港の生物観察;(7)実験所構内に出現する夜行性熱帯性海浜動物の観察と地球温暖化の説明;(8)水族館で飼育展示中の諸動物分類群の解説と観察; (9)南方熊楠館で粘菌の観察;(10)特製DVD・CDで,特に不老不死のベニクラゲと早死のカイヤドリヒドラクラゲ(担当者のライフワーク)の解説と歌など・・・。
 多様な海岸の生物群を自然あふれる現場で体験できる有効性を活用し、整った設備と廉価な滞在費(約1万円:交通費と食費と洗濯代は実費)で実施。日本最古で質のよい温泉でフィールドワークの疲労も吹き飛ばせました。歌でも地球の動物たちの概要を学べました。参加者全員の一致した簡潔な感想は、「生物採集・観察などは楽しく、分類は少し難しい面もあるが、また白浜に来たい」。
 いつも最後にまとめていることですが、本実習はいくら時間があっても足りません。その理由は、生命の母なる海には未知な生物が、無数に、多様に、時空的に変化しながらお互いに影響しあって存在しているからです。例えば、現生144万種もの動物は最細分してもたった44門です。この基礎を得心し、これからの人生で地球動物の同朋者として生きている彼らの個々の一生、つまり、配偶子から受精卵・幼生・幼体・成体・老齢体など「生活史」のことを常に頭におき、個体・種全体・特定地域個体群・地球全生物の現在・過去・未来に思いを十二分に馳せて下さい。人間以外は“食う食われるの関係”で種の存続が成り立っている厳しい現実の「食物網」がありますが、その中で独立して現存できる人間の“おごそかさ”を十分に噛みしめて下さい。すると、人間として生まれた幸せが納得できるでしょう。このポイントを今回の実習から心得ておくことは人間の義務です。これからは多様な海洋生物、特に岸辺で出会える様々な生き物に人生をかけて、あるいは趣味として、めいっぱい親しもう・何かすごいことを究明しよう等といった思いが芽生えてくれば、本実習に参加した意義があるでしょう。3大テーマ:(1)ベニクラゲの若返りのメカニズムの解明とその人類への応用;(2)造礁サンゴ類・サンゴイソギンチャクに習い、人工光合成で食糧問題の解決;(3)南海・東海大地震の予測、これらに加え、海に潜む生物の様々な秘密を発掘・研究・応用する醍醐味を夢にみて下さい。末筆ながら、短期間ではありましたが学部を越えた交流ができましたが、是非、継続していって下さい。