クラゲと魚のつながりをフィールドからさぐる

沿岸資源管理学分野 益田 玲爾

 2002年以降,ほぼ毎年のように大発生しているエチゼンクラゲ.直径は軽く1mを越え,有毒な触手は5mもの長さで水中をたなびく.その突然の大発生以来,無敵の巨大生物のように言われてきたが,実際には多くの魚たちがこのクラゲを利用している.
 舞鶴沖の冠島周辺に流れてくるエチゼンクラゲについて,過去3年間,潜水観察を行ってきた.一例として,2007年に潜って観察したエチゼンクラゲの約95%には魚が寄りついており,その大部分はマアジの稚魚であった.アジたちはクラゲに寄りついて,一体何をしているのだろうか.観察者が近づくとアジはクラゲに身を隠すことが多いので,アジがクラゲを隠れ家として利用していることはほぼ確かだ.餌としてはどうだろうか.アジの稚魚の腹の中を調べても,出てくるのは外洋にいる動物プランクトンばかりで,クラゲを食べている気配はない.また,実験室で飢餓状態のアジにクラゲを与えてもまったく食べなかった.ところが,その水槽に餌のプランクトンを入れると,アジはクラゲの集めたプランクトンを巧みに横取りするではないか.おそらく天然の海でも,アジたちはクラゲを隠れ家にしながら,クラゲの集めた餌を失敬しつつ,成長のための旅を続けているのだろう.
 一方で,クラゲを貪欲に食べる魚もいる.カワハギやウマヅラハギ,イボダイといった魚たちだ.ウマヅラハギがクラゲを食べる様子は壮観である.よほどクラゲが好きなのだろう,と思い,本年度の卒論生の鎌田君の研究テーマとして,クラゲを餌として与えてウマヅラハギを飼育する実験をやってもらった.鎌田君と相談した末,4つの実験区を用意した.何も与えない飢餓区,クラゲだけを餌とするクラゲ区,魚の好物であるオキアミを餌とするオキアミ区,そしてクラゲとオキアミの両方を給餌する混合区の4つだ.結果については,卒論発表の日まで伏せておこう.ともかく,研究のアイデアはいつも海の中にあるし,結果の解釈についても,水中を元気に泳ぐ魚たちに尋ねて回る日々である.

(いずれも舞鶴市冠島周辺にて2007年11月に撮影)

ニュースレター13号 2008年3月 研究ノート