ポケゼミ報告2015「京都のエコツーリズム -森での感動とは何か-」

森林育成学分野 准教授 伊勢 武史

 京都の歴史的・文化的繁栄に、自然と社会の共生の果たしてきた役割は大きい。京都をとり巻く森林は、木材・燃料・食料の供給源であるとともに、京都に生きる人々の文化的・精神的幸福にも貢献してきた。現在においても、新緑や紅葉など京都の自然の人気は非常に高い。今後の京都のビジョンを描くうえで、市街地や史跡の観光だけではなく、エコツーリズムなど京都をとり巻く自然と人々のかかわりについて具体的に構想することは欠かせない。このようなわけで、ポケゼミ「京都のエコツーリズム-森での感動とは何か-」では、森林が現代人の精神的幸福に貢献するメカニズムを探り、従来の「自然保護ありき」で語られる環境保全ではなく、進化生物学や心理学などの客観的な視点から、人々が森を心地よく思い、愛し、敬う感情とは何か・その感情はいつどこで生じるかを考えることとした(本授業は、文部科学省「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」(京都学教育プログラム)における「いきよし」として開講された)。
 7月中に実施された吉田キャンパスでの講義および実習の説明会を経て、いよいよ集中講義としてのフィールド学習が芦生研究林で実施されたのは2015年9月2日から4日。この機会に、京都を取り巻く自然の価値について、特に文化的生態系サービスについての知識を得、また実際に観光客に人気の森林環境を体験することで、エコツーリズムが果たす役割とは何か、今後の社会にどのような貢献を果たすかを考えることができた。実習では、仮説を立て、調査によって検証し、考察するというプロセスを体得した。その結果として、森で生じる感動とは何かを考え、人にとってそれがどのような意味を持つかを分析する経験を積んだ。
 1日目は座学とトロッコ軌道の観察を行ったのち、学生はグループごとに、来訪者にとって自然のもたらす精神的・文化的効果を明示的・定量的に調べ、森に対する気持ちについての普遍性や法則性を探る手法について検討を行った。指導教員とティーチングアシスタントはそれぞれの仮説の設定や研究手法、結果の解析を丁寧に指導した。2日目は、各グループが仮説に基づいて、芦生研究林の上谷エリアにおいて実験を行った。脳波計やGPS、ウェアラブルカメラといった最新の電子機器を利用してデータを取得し、それを解析するという体験は非常に有意義なものだった。その結果、最終日である3日目の発表では、各自が仮説の検証結果について客観的にプレゼンテーションを行うことができた。さらに、芦生研究林のネイチャーガイドとして働くかたわら写真家としても活動している広瀬慎也氏を招聘し、自然の持つ魅力とは何かをディスカッションしたことも貴重な経験となった。