村上 弘章氏・益田玲爾准教授が最優秀ポスター賞を受賞

2016(平成28)年3月20-24日に仙台国際センターで開催された第63回日本生態学会大会(ESJ63)において、村上 弘章氏(農学研究科博士後期課程1回生・里海生態保全学)および益田玲爾准教授がポスター発表 生物多様性分野30件中の最優秀賞を受賞しました。

 対象となった発表内容は以下の通りです。
「環境DNAの断片長による見た目の分解速度の違い」
 徐 寿明・村上 弘章・坂田 雅之・益田 玲爾・山本 哲史・源 利文

(研究の要旨)
 近年、水系における生物相のモニタリング手法として、環境DNA手法が用いられるようになっている。この手法の登場によりモニタリングの時間的あるいは人員的コストは大幅に抑えられるようになったが、未だ課題も残されている。その一つとして、検出された環境DNAがどのタイミングで元の生物から放出されたものなのか分からないことが挙げられる。
 本研究では、マアジ(Trachurus japonicus)を対象種とし、まず水槽実験を通して、異なる長さのDNA断片間において時間経過に伴う分解率がどのように変化するかを調べた。その結果、環境DNAの分解率は、断片長の長い方が大きくなることが判明した。また、そうした断片長間における分解率の違いを利用して、2014年4月19日に舞鶴西湾の全47地点で採水されたサンプルにおけるマアジの環境DNAの放出後時間の推定を試みた。その結果、環境DNAの時間的な前後関係をある程度推定できることが分かった。また、魚群探知機によるエコー強度と環境DNA量の相関を見ると、長いDNA断片の方がエコー強度とより強く相関していることも分かった。本研究により、環境DNAに時間軸を与えられる可能性を示すことができた。将来的に研究がさらに発展すれば、生物の移動分散などにおける研究に大きく役立てることができるかもしれない。

(ニュースレターNo.39原稿)
 神戸大学と京大フィールド研の共同で舞鶴水産実験所にて行われた研究が、上記の賞を受賞しました。環境 DNA 技術は、水を採取して生息する魚の種類や個体数を推定する技術ですが、魚がいつそこにいたかという情報については、これまでの手法では不明です。本研究では、DNA の断片のうち長いものほど速く分解されることを利用して、この問題を解決する道を拓きました。まず、マアジを水槽で飼育して海水を採取し、経時的に分析することで、長い断片は短い断片よりも速く分解されることを示しました。次に、舞鶴漁港の近くで採水した試料水からは短い DNA 断片(すなわち水揚げされたマアジ由来の古い DNA)、また魚群探知機でマアジの多いことを確認した地点では長い DNA 断片(生きたマアジ由来の新しい DNA)が多く検出されることを確認しました。以上の研究は、環境 DNA に時間情報を持たせられた点が画期的と評価されています。

ニュースレター39号 2016年07月