ILASセミナー報告2017「南紀の博物誌」

基礎海洋生物学分野 助教 大和 茂之


 ILASセミナー「南紀の自然史」は,9月26日~29日の3泊4日の日程で,瀬戸臨海実験所に宿泊して,現地実習を行った。昨年に続いて2回目の開催で,前回と同様に,田辺湾内の神島,畠島,天神崎の3つの地点に注目して,実際に現地を訪れて見学することを計画した。これらの地点の自然保護には,神島の南方熊楠,畠島の時岡隆,天神崎のナショナルトラスト運動など,先人の活動が関わっている。
 4月時点で,参加学生は,法学部1人,医学部1人,農学部3人の計5人であった。5月にガイダンスをやった後は,夏休みの終りに現地で集合するという計画であったが,途中一人のキャンセルもなく,当初の5人で実習を実施した。しかし,その他の点では,計画通りのメニューがこなせないことも多かった。例えば,例年9月下旬には,他の大学の実習が行われないものと予想していたら,別の大学の実習と重なり,そのために実習室が使えないことになった。それで,講義室での説明と,フィールドでの観察・見学が中心となった。また,船の使える日程が限定されたことから,実習項目の変更にも融通がきかなくなったところに,低気圧の接近で船が出せなくなってしまって,予定していた畠島に行けなくなった。
 一日目は,実験所のすぐ前の番所崎の海岸を一周した。この日は潮の引きが悪かったが,現場の観察を中心として,多様な海岸の生物を見てもらえたように思う。
 二日目は,朝からレンタカーで田辺市へ移動し,闘鶏神社(世界遺産に指定されていて,背後の森の保全に南方熊楠が尽力した),南方熊楠顕彰館・南方熊楠邸を見学した。顕彰館では,特別に収蔵庫に入らせてもらい,南方熊楠が用いた資料に直接触れる機会となった。午後は,天神崎に移動し,背後の山や湿地から海岸までを見学した。山と海岸が一体となった自然を残すために,ナショナルトラスト運動の発祥となった場所を,実際に歩いて回った。
 三日目の午前中は,実験所の水族館やそのバックヤードを見学し,白浜周辺の生物の概要と,それを飼育するための設備を説明した。午後は,低気圧接近で船が出せなくなったために,急遽予定を変更して,田辺湾奥の内之浦干潟と,鳥の巣半島で生物を観察した。干潟では,泥だらけになりながら,カニや貝類などの干潟特有の生物を観察した。鳥の巣半島のため池では,人為的な移入種であるアフリカツメガエルを駆除するために,地元の高校生が活動している場所を見学した。また,今回は船で見学することが出来なかった神島の森を対岸から眺めた。
 四日目は,レポートを書いて,解散となった。
 前年度と同じ日程を組んだのだが,潮が悪かったり,他の大学の日程と重なったり,船の利用出来なかったりして,当初に予定していた項目のすべてを見てもらえなかったが,アンケートによれば,学生にはそれなりに満足してもらえたように思う。夏休み中の実験所での実習の過密さから,教員一人で学生に対応するのは,日程的にも体力的にも無理があり,次年度以降の実施は断念することにした。