リレー講義報告2017「森里海連環学II :森林学」

森林育成学分野 教授 德地 直子


 森林は我が国の国土の7割を占め,私たちの環境の主要な構成要素である。また,そのうちの4割は人工林であり,人間活動と森林の関係は非常に重要なものとなっている。この講義では,森林について,森林をとりまく社会情勢,林業の現状,森林の生態学的把握,森林の生み出す機能,森林をよりよく利用するための方策など,多方面から森林を解析し,総合的に森林に対する理解を深めることを目的としている。講義の形式は,森林を考える場合,自然科学の面のみならず,林業などを含んだ人間とのかかわりを考えることが欠かせず,他分野にわたるため,各分野の専門の教員によるリレー講義としている。本年度は,各講師によりテキストが作成され,講義資料として学生たちは事前に学習ができるように工夫された。
 講義では,まず,石原正恵准教授により日本の森林植生の特徴が紹介された。中島皇講師からは森林と水・土(2回)の関係について述べられた。次いで,伊勢武史准教授より,森林生態系炭素循環について紹介され,德地より窒素およびその他の物質循環についての検討が加わった。さらにこれらの知識をもとに,森林生態系の創り出す生態系サービスについて紹介した。本年は,昨年度まで特任助教としてフィールド研に所属されていた東若菜先生に特別講義をお願いし,植物についての基礎的な講義をしていただいた。東先生は樹にロープをかけて樹冠にアクセスし,サンプルを採取するという独自の手法で得られた樹木の水利用についての最新の知見を紹介され,学生の理解が深まったようだった。次いで,中西麻美助教からは樹木の一次生産について,特に花粉症の問題をいれて総合的な説明がなされた。中川光助教からは森林生態系との連環において成立している河川生態系の紹介がなされた。このような多様な生態系を包括的にとらえて,吉岡崇仁教授が森林を流域の中で位置付け,流域と環境に対する意識についての講義がなされた。さらに森林と人間とのかかわりの上で重要な森林政策について,農学研究科森林・人間関係学の松下幸司准教授が講義されたのち,森林資源の利用について林業機械などを含め長谷川尚史准教授による講義があり(2回),坂野上なお助教により木材の消費・流通システムが考察された。以上のように,最後に専門の異なる複数の教員によるリレーの形式で,森林の持続可能な利用についての総合的な講義が行われた。