ILASセミナー報告2019「北海道の昆虫相」

森林情報学分野 講師 小林 和也



 本セミナーは、北海道の森林生態系における昆虫相とその生態について調査・研究手法を学ぶことを目的として、北海道研究林において8月6日から10日にかけて行った。履修生は、医学部1名、工学部1名、農学部4名の計6名に加え、北海道研究林においてILASセミナーと同時開講している公開森林実習2の参加者として、同志社大学理工学部と立命館大学文学部からそれぞれ1名が参加し、京都大学の学生と合わせて計8名であった。
 実習に先駆けて4月19日に京大生を対象に北部構内でガイダンスを行い、実習のねらい、昆虫相の概要、北海道研究林の気候や地理要因について解説し、ピットホールトラップと簡易式ライトトラップを紹介した。これらの情報を元に、昆虫相に影響を与える要因について履修生に思いつく限り挙げてもらい、それらの要因が実際に影響を及ぼしているか検証するための各トラップの設置条件を検討してもらった。その結果、川沿いと尾根・人工林と天然林の比較を行うこととなった。
 8月6日は17時に北海道研究林の講義室に集まって施設の案内や翌日以降の作業内容を復習すると共に、作業場や実習中の注意事項をアナウンスするなど、林内作業に関する安全教育を行った。7日は朝から北海道研究林標茶区の林内に移動して、尾根沿いのアカエゾマツ人工林においてチェーンソーを用いた間伐体験を行った後、間伐を行った隣の林分において、人工林と天然林の境界付近で双方の林分にピットホールおよびライトトラップを仕掛けた。同様に、川沿いのアカエゾマツ人工林に移動し、そちらにもトラップを仕掛けた。また、林内で各自10の目を目標に林床や樹上の様々な昆虫を探して捕獲し、どのような場所にどういった目の昆虫が生息しているのか実際に体験してもらった。夕方には管理棟に戻り、夕食をすませたのち、管理棟の裏で400Wの投光器を用いたライトトラップを行い、光に誘引される様々な昆虫類を観察した。翌8日は仕掛けたトラップ回収し、捕獲された昆虫をピットホールは科レベルで、ライトトラップは目レベルで仕分けることで各林分における昆虫相の定量的データとし、分析を行った。得られた結果をレポートに纏め、4人一班でグループになってそれぞれのトラップの結果を発表・解説してもらった。8日はより広域の自然環境を見学するため、摩周湖外輪山展望台、硫黄山、釧路湿原を訪問し、火山活動によってできた広大な台地と低温によって形成された泥炭土壌、それらによって形成された植生を学んだ。
 ある地域の昆虫相が形成されるプロセスを推測し、実際の状況を見学し、一部を検証し、得られた知見を纏め、興味を惹かれた部分を発表し、より深く掘り下げていくためにはどうしたら良いか考えるという研究のプロセスを体験してもらうことができたように思える。