有田川での「森里海連環の再生にむけた取組」最初の集い

有田川での「森里海連環の再生にむけた取組」最初の集い

有田川での「森里海連環の再生にむけた取組」最初の集い

森里海連環学教育研究ユニット 連携助教 赤石 大輔

 2018 年5 月12,13 日にシンポジウム「森と川と海が育む有田川のアマゴ~講演会とアマゴの健康診断~」を開催しました。有田川の上流には京都大学和歌山研究林があります。有田川でのこれまでの研究により,アマゴの生育は森林の植生に大きく影響を受けることがわかってきました。また有田川に多数ある支流には有田川固有の遺伝子を持つ天然アマゴの存在が示唆されました。渓流釣りをする人たちの間では釣りを持続的に楽しむことが検討されています。そこで神戸大学や大阪にある釣り同好会「毛鉤倶楽部」と連携し,有田川固有の遺伝子を持ったアマゴを探し,保全のきっかけとする「有田川流域のアマゴの健康診断プロジェクト」を実施することとなりました。本シンポジウムは,このプロジェクトのキックオフイベントであることから,副題に「森里海連環の再生にむけた流域の取組み 最初の集い」とつけました。シンポジウムには有田川町民や漁協の組合員,毛鉤倶楽部のメンバーの50 人が集い,2 日間にわたり有田川のアマゴの未来について意見を交わしました。
 初日は有田川町清水文化センターにて講演会を開催しました。京都大学の森里海連環学教育研究ユニットから德地直子教授,清水夏樹准教授,神戸大学の佐藤拓哉准教授,フィッシングジャーナリストの佐藤成史氏,有田川漁業共同組合の前川正組合長による講演のほか,「アマゴと有田川町の未来について」と題して総合討論を行いました。来場した町内住民や県内の漁業関係者,県外からの釣り人などから多数の意見が上がり,登壇者と活発な議論が行われました。
 翌日は,和歌山研究林前の渓流にて現地検討会を行いました。あいにくの雨天となりましたが,佐藤氏によるフライフィッシングでのアマゴ捕獲とDNA の採集のデモンストレーションが実施されました。その後,本プロジェクトの意義について解説が行われ,釣り場管理や地域活性化への今後の展開について,情報交換が行われました。
 近年,市民が参加して行う科学調査「市民科学」に注目が集まっています。多くの市民との連携により,広範なデータ収集が可能になるばかりでなく,調査に参加した市民が研究者とともに調査結果について考察することで,環境への意識が向上し,より環境を良くするための政策づくりのきっかけにもなることが期待されます。このアマゴ健康診断プロジェクトでも,前述のフライフィッシング愛好家達が調査に参加し,2018 年はシンポジウム後から6月末まで,2019年は3 月から6 月末まで有田川各支流での精力的な調査を行い,ほぼすべての支流での調査を終了し,現在はDNA の分析を行っています。研究成果は今後,プロジェクトの参加者や地域へ還元し,有田川の持続可能な利用に向けた政策に活かして行きたいと考えています。
 私たちの活動とは全く独立した動きですが,2019年5月の和歌山県地方紙には,「和歌山県内の内水面漁協で,漁協の遊漁規則を改定し,アマゴの採捕禁止サイズを全長10センチ以下から15センチ未満へと強化する動きが進んでいる。県内水面漁連は「小さなアマゴを守り,いつでも釣れる川を目指したい」と話している(紀伊民報,2019年5月17日)」との記事が掲載されました。漁業者も釣り人達も,より大きな魚を持続的に釣れる環境作りを求め,行動に移していっています。私たちの研究成果がその取組を後押しし,森里海連環の再生を加速させられるように,地域と連携していきたいと考えています。

年報16号 2018年度