2017年度公開森林実習I

2017年度 京都大学公開森林実習I 実施報告
−近畿地方の奥山・里山の森林とその特徴−
Joint Field Practices in Kyoto University Forest
– Characteristics of Forest landscape of “Okuyama” and “Satoyama” in the Kinki district –

上賀茂試験地、芦生研究林および北白川試験地において、公開森林実習Iを実施しました(報告書)。公開森林実習Iは、京都大学で開講しているILASセミナー「京都の文化を支える森林-森林の持続的管理に関する地域の智恵と生態学的知見からの検証」と同時開講で行い、今年度は、受講希望者が多く、また、他の実習と日程が重なったことから、受講生を2回に分けて、2つの日程(Ia:8月17-19日、Ib:8月28-30日)で実施しました。参加学生はILASセミナーが8名、公開森林実習Iは人間環境大学人間環境学部 14名、筑波大学生命環境学群、広島大学総合科学部、東京農工大学地域生態システム学科、早稲田大学人間科学部、九州大学農学部、日本自然環境専門学校、京都学園大学バイオ環境学部 以上、各1名、公立鳥取環境大学環境学部 6名でした。

上賀茂試験地では、安全教育の後、試験地の林分の変遷を学んだ上で、外国産樹種を含め多数の樹木が生育する林内を観察し、植物の多様性を学んだ。また、マツ枯れ、ナラ枯れやシカ食害など、森林植生への影響の実態を直接目で確かめ、森林環境保全について人と自然のかかわりから考える機会を設けた。芦生研究林では、芦生地域で有害捕獲事業にも携わっている地元猟師(Ia:鹿取氏、Ib:藤原氏)から、森での暮らしや鹿・猪を森の恵みとして利用することなどについて話しを聞いた。
 二日目については、日程(IaとIb)により実習内容が異なった。Ia日程では、降雨の影響で林内実習を長治谷から野田畑湿原の周辺に規模を縮小して実施した。その後、シカ食害後に生育したオオバアサガラ林の毎木調査班と下谷にある大カツラ周辺での環境心理学に関する調査班に分かれた。オオバアサガラは、ニホンジカが好まないことからほぼ純林のような景観を呈していたが、最近、シカによる樹皮剥ぎが見られるようになってきた。データ解析の結果、胸高直径の大きい(太い)木ほど被害に遭っていることが示唆された。一方、心理学実験では、同じ森林景観においても、個人によって緊張したりリラックスしたりする傾向が違うことが示唆された。Ib日程では、杉尾峠から長治谷まで樹木識別をしながら、由良川源流域を下り、各所で実施されているシカ柵実験地を視察しながら、長治谷まで移動した。その後、事務所構内に戻り、前日設置したライトトラップで補修された昆虫の同定を行った。両日程とも、渓流水質の分析実習に取り組み、教員とTAが測定したデータを利用して考察を行った。
 三日目、Ia日程では、人間と森林の関わりを体験するため、かやぶきの里で地元のボランティアガイド大萱氏から、茅葺き住宅の特徴や歴史について解説を受けた。Ib日程では、京都市の市有林を見学した後、(株)北桑木材センターを訪問し、京都府中部での木材の利用と流通について教員からの解説を受けたほか、(株)カモノセログでは、地域産材の新たな利用について説明を受けた。両日程とも、最後に京都大学キャンパス内にある北白川試験地を訪れ、見本園で主な樹種についての解説を受け、材鑑室では、100種以上の樹種について樹皮を間近に観察し、レポートを作成の後、解散した。
 Ib日程では、二日目の実習終了後、北海道研究林との間でTV会議システムを利用した情報交換会を開催した。北海道研究林で同時期に実施中であった京大農学部生が研究林実習(III)においても、樹木実習とライトトラップによる昆虫相の実習を行っており、その結果を芦生と比較させた。本州と北海道という異なる植生帯で実習を受講している学生間で意見交換、質疑応答をすることができ、履修生の森林生態系に関する理解を深める一助となったと思われる。


写真1 オオバアサガラの毎木調査(Ia)


写真2 京都市市有林での解説


写真3 北海道研究林とのTV会議(Ib)