ポケゼミ報告2014「海岸生物の生活史」

基礎海洋生物学分野 准教授 久保田 信


 定員4名のところ、7学部から25名の応募があったので、最大限とのことで各学部から1名ずつを選抜しました。薬1女、文1女、理1女、経済1男、法1男、農1男、工1男の7名の全員参加で、2014年5月3~6日に本セミナーを実施。自然環境に恵まれ、風光明媚な白浜町(和歌山県)産の動物を中心に、84年の伝統ある水族館を有し、1922年開所の瀬戸臨海実験所の周囲の海岸においての実地授業でした。主な実習内容は、(1)海洋生物の多様性の解説(教科書:拙著「宝の海から」)と各種図鑑での学習;(2)不死のベニクラゲの形態・生活史とクラゲ類のGFP;(3)漂着物調査(瀬戸臨海実験所“北浜”);(4)磯観察(畠島);(5)番所山での自然観察;(6)瀬戸漁港の生物観察;(7)実験所構内に出現する夜行性熱帯性海浜動物の観察と地球温暖化の説明;(8)水族館で飼育展示中の諸動物分類群の解説と観察; (9)南方熊楠館で粘菌の観察;(10)特製DVD・CDで、特に不老不死のベニクラゲと早死のカイヤドリヒドラクラゲ(担当者のライフワーク)の解説と♪歌など・・・。
多様な海岸の生物群を、自然あふれる現場で実地体験する有効性を、整った設備と廉価な滞在費で(交通費と食費は実費)実施。日本最古で質のよい温泉で、フィ-ルドワ-クの疲労も吹き飛ばす。参加者全員の感想の一部を紹介:「今までの人生で磯に行った経験は多いのに、こんな生物がいるなんてと思いぱなしだった」;「ベニクラゲの研究は非常に興味深く、不老不死への情熱が感じられた。また“生命の星”という壮大な目標を掲げる先生は本当にすごい」;「死んで貝殻になったタカラガイしか見たことがなかったので、生きて中身の詰まっている姿が嬉しかった」;「海が綺麗で星も綺麗で、白浜に来れてよかった」;「秘蔵ライブラリーは面白く、先生,すごいです」;「先生の歌の歌詞には深い意味があり、次の日も頭の中に残る様な印象的なメロディで、大ヒットする日もそう遠くはないと感じた」;「先生のキャラは豪快で、とてもユニークで、また白浜に来たい」。
 本実習はいくら時間があっても足りない。その理由は、生命の母なる海には未知な生物が、無数に、多様に、時空的に変化しながらお互いに影響しあって存在しているからである。例えば現生145万種もの動物は最細分しても、たった44門。この基礎を得心し、これからの人生で、地球の同朋者として生きている彼らの個々の一生、つまり、配偶子から受精卵・幼生・幼体・成体・老齢体など「生活史」のことを常に頭におき、個体・種全体・特定地域個体群・地球全生物の現在・ 過去・未来に思いを十二分に寄せること。人間以外は“食う食われるの関係”で種の存続が成り立っている「食物網」にも留意し、現存できる“おごそかさ”を十分にかみしめること。人間として生まれた幸せを納得すること。
以上のポイントを今回の実習から今後心得ておくことこそ人間の義務です。これからは多様な海洋生物、特に岸辺で出会える様々な生き物に人生をかけて、あるいは趣味として、めいっぱい親しもう・何かすごいことを究明しよう、といった思いが芽生えてくれば、本実習に参加した意義があるでしょう。3大テ-マ:①ベニクラゲの若返りのメカニズムの解明とその人類への応用;②造礁サンゴ類・サンゴイソギンチャクに習い、人工光合成で食糧問題の解決;③南海・東海大地震の予測、これらに加え、海に潜む生物の様々な秘密を発掘・研究・応用する醍醐味を夢にみて下さい。末筆ながら、学部を越えた交流も継続していって下さい。