和歌山研究林における地域連携事業

森林育成学分野 長谷川 尚史

 和歌山研究林は和歌山県有田郡有田川町にある施設です。有田みかんで有名な有田川流域にありますが、みかん栽培が盛んな下流域ではなく、支流の湯川川の源流域に位置しています。高野山と龍神温泉の中間にあり、近隣には和歌山県最高峰である龍神岳(1,382m)があります。
 有田川町は上流の清水町、中流の金屋町、下流の吉備町が2006年に合併してできた町です。和歌山研究林は旧清水町に位置し、かつては林業が主要産業でした。また紀州和紙やぶどう山椒の発祥地、シュロ栽培が日本ではじめて行われた町としても知られています。しかし薪炭革命以降、各種の産業や林業が衰退し、旧清水町の人口は最盛期の13,068人(1947年)から3,739人(2010年)へと激減、特に2005年からの5年間で2割も減少しています。
 旧清水町には、県立有田中央高等学校清水分校があります。和歌山研究林では2002年度から清水分校の高校生を受入れ、地域の主要な産業である林業について学ぶこと、身の周りの自然環境について自ら考えまとめる力を習得することなどを目的とした科目「ウッズサイエンス」を開講し、年間10数回の講義・実習を実施してきました。今回、この協力体制を拡充し、森里海連環学を基礎とする木文化創成のための地域及び環境に関する教育の振興等を目的とした「和歌山県立有田中央高等学校と京都大学フィールド科学教育研究センターの連携協力に関する協定書」を交わしました。
 一方、町内には拡大造林期に植栽された人工林が多く、成熟・利用期を迎えていますが、林業の衰退によって担い手が不足しており、また急峻な地形ゆえにうまく木材を搬出する方法も確立されていません。そこで平成24年度に和歌山研究林の地権者であるマルカ林業株式会社、和歌山県、およびフィールド研で構成する三者協議会を立ち上げ、森林経営計画の共同立案、人工林の間伐を中心とする施業方法、森林環境教育プログラム構築などの検討を開始しました。三者協議会では、地域の林業関係者を交えてシンポジウムや路網・林業機械に関する勉強会を開催するとともに、本年4月には「産学官連携による森林経営に関する協定書」に調印しました。今後、地域の森林管理に関する共同調査も計画しており、さらに活動を活発化させる予定です。
 中山間地域の過疎化は、日本全体に共通する大きな問題です。和歌山研究林では森里海連環学に関するフィールド研の研究成果を活用するとともに、現場で生じている諸問題を新たな研究テーマとして導入することによって森里海連環学の裾野を広げ、地域の高校や産学官連携を通した地域の将来を担う人材育成と森林資源の活用法の確立、総合的な地域活性化に貢献していきたいと考えています。

ニュースレター33号 2014年6月 社会連携ノート