瀬戸臨海実験所の臨海実習

瀬戸臨海実験所 河村 真理子・岡西 政典

 瀬戸臨海実験所は、全国の大学に教育プログラムの提供と施設の開放を積極的に行い、海洋生物の自然史科学に関わる人材を育成することを目的として、平成23年度に教育関係共同利用拠点(教育拠点)に認定されました。他大学生の参加を募って公開臨海実習を実施するほか、他大学主催の実習・研究利用を受け入れており、年に200~300名の大学生が訪れています。本稿では、当実験所で教育拠点事業として行われている臨海実習について紹介します。
 公開臨海実習は、他大学生を対象に実験所教員および研究員が指導する実習です。様々な海洋環境に生息する動物の多様性や形態・生態の面白さにひたすら触れることをテーマとした「海産無脊椎動物多様性実習」と各分類群の進化や生活史に着目して詳細な形態を学ぶ「発展生物学実習」という2つに、教育拠点となってから、分子系統解析のノウハウを学ぶ「海産無脊椎動物分子系統学実習」、藻類・植物の海岸環境への適応進化を考える「藻類と海浜植物の系統と進化」、自分で設定した研究テーマを追求する「自由課題研究」の3つが追加されました。このような異なる視点で海洋生物を観察・分析することで、科学的理解をより深めることがねらいです。
 他大学主催の共同利用実習には、公開臨海実習と同様に実験所の研究員が参加し、希望に応じて野外や水族館での生物解説、解剖などによる詳細な形態観察とその解説、研究分野に関連した講義などを行っています。加えて、利用案内とともに実験所付近で想定される津波発生時の避難経路案内を毎回行っており、安全面にも配慮した教育活動を実施しています。また、様々な実習校による様々な内容・スタイルの実習を研究員が経験することで、実習法の知見を蓄積でき、再び実習校へフィードバックすることで教育プログラムの充実につなげています。
 研究員の専門を生かした教育プログラムの一例として、独特の形態を持つ海洋生物である、クラゲなどの刺胞動物やウニ・ナマコなどの棘皮(きょくひ)動物を使った形態観察があります。「生物界最速の動き」と呼ばれる刺胞の発射や、棘皮動物に特有な「水管系の仕組み」の観察を通じて、動物の機能形態を解説しています。このような臨海実習ならではの解剖の実演や関連研究の講義によって海洋生物に親しみを持ってもらい、学習効果を高めてもらえればと期待しています。また、多くの大学が実施しているウニの発生実習においては、親ウニにダメージの少ない塩化アセチルコリンによる放精・放卵の誘導を、資源保護にも配慮した方法として各実習校に紹介しています。
 実習で訪れた全ての大学生に対してアンケート調査したところ、最も興味深い実習内容として「多様な海洋生物の観察」と「野外生物採集」が挙げられており、「普段できない貴重な体験ができた」というコメントが多く寄せられています。特に、当実験所では無人島である畠島を1968年以来約半世紀にわたって保護管理しており、その自然海岸における多様な生き物の有り様を観察することが、他大学生にとって「貴重な」体験となっていると考えられます。護岸や埋め立てなどで自然海岸が減少していく一方、情報網の発達によって海洋生物の知見は容易に入手できるようになりました。しかし、海洋生物に対する学習意欲の増進にフィールドでの興味深い発見が一役買っていることは、今も昔も変わらないことであり(自分達がそうであったように)、そういった体験をサポートすることが、臨海実験所の教育活動に求められる大きな使命であると実感しています。

ニュースレター36号 2015年6月 教育ノート