ポケゼミ報告2015「地域連環学入門」

里地生態保全学分野 准教授 梅本 信也


 2015年9月21日(月)から25日(金)まで、紀伊半島南部の古座川流域と串本湾岸域での構成要素連環、聴取調査手法、生物調査手法の体得等を目的としたポケットゼミが行われた。文学部、法学部、経済学部、工学部、農学部の1回生、合計8名の男女が参加した。和歌山県鳥獣保護区指定の照葉樹林に囲まれた京大紀伊大島実験所宿泊棟での指導教員との共同生活では節電、節水、節ガス、節排水を励行した。朝晩は実に涼しく過ごせた。
 初日は京都大学が新人教育用に設置したポケットセミナーの意義と経緯、現場を詳説し、施設利用時や調査時における諸マナーの説明を行った。「古座川合同調査報告集・第1~10巻」、「清流古座川物語」、「里域連環学入門」、「紀伊大島のイノシシ」、「紀伊半島南端の植物」、「紀伊半島南端の植物文化と食文化」、「紀伊半島南端の古景観」、「里域食文化入門Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ」、調査用地図など諸資料を提供、調査用諸道具を紹介、対象地域の地史、地形、気象、植生、土壌、生物相、文化相の概要を把握させた。 
 第2、3日は、調査現場や宿泊施設における適宜の交流をしながら、那智勝浦町ぶつぶつ川(日本で最短の2級河川、全長13.5m)班と古座川水生昆虫相班に分かれた。ぶつぶつ川班では対象地域の粉白および隣接地区の住民から川の活用や保全、心理的関係を詳細に聞取り及び観察した。水生昆虫班で水質調査ならびに5分間の水生昆虫採集を行った。水質調査では流速計を用いた流速測定、試験紙によるpH測定、パックテストによる銅濃度、鉄濃度、カルシウム濃度、COD値、マグネシウム濃度、リン酸濃度、亜硝酸濃度、硝酸濃度測定、水温、塩分、電導度、蛍光量、濁度測定などを測定した。採集した昆虫はその場で70%エタノールにより固定し、実験室で同定を行った。移動中の公用車では各班とも地域概要説明を行いながら、積極的な議論を行った。例年通りの現象であるが、学生の目が本来の輝きを取り戻し、他人への心配りが顕著に向上した。宿泊施設では時に教員を交えた活発な自由討論が行われた。地域を構成する連環学的諸要素は複雑に繋がり、驚異や多様性に満ちていること、事実には重層性や階層性、奥行きがあることを学生は実体感できた様子であった。共同での調査作業、共同での宿泊生活や濃厚な会話を重ねていく過程で、他の担当ポケゼミと同様に、学生の顔や言動にエネルギーが満ちていくのが指導教員として嬉しく思われた。
 第4日は各班でデータの総括的整理や報告書作成を行った。得られた諸データを整理し、取得した情報の共有化を図った。分量はA4のレポート用紙で厚さ3cmになった。発表会や諸検討の末、実習の成果を仮レポートとして提出させた。後日に提出された正式原稿は「古座川合同調査報告集・第11巻」(2016年1月発行)に所収され、2016年度から開講されるILASセミナー「地域連環学入門」用の参考資料となる。最終日には宿泊施設諸設備の片付けと今後の人生設計への注意点について簡単な講義が行われ、全員無事に解散となった。なお、本ポケットゼミの活動成果の一部は2015年11月3日付け朝日新聞(和歌山版)31面に掲載された。(2015年9月25日、11月10日)