フィールド研社会連携教授 ―畠山重篤氏、C. W. ニコル氏を迎えて―

フィールド科学教育研究センター長 田中 克

 森林域・里域と海域・水産系の現地教育研究施設の統合による全学共同利用施設として、フィールド科学教育研究センター(フィールド研)が発足して、2年余りが経過しました。この間、森や里ならびに海の諸科学をつなぐ新たな統合学問領域「森里海連環学」の創生を求めて、全学的な教育・研究と社会連携活動に取り組んできました。特に、全学の新入生を対象にした少人数セミナー(略称ポケットセミナー)や森里海連環学の講義とフィールド実習に力を注いできました。それは、新しい学問の創生には既成の研究者のみの発想ではなく、これからの世界を担う若い柔軟な頭での発想が求められるとの思いからです。同時に、新しい統合学問領域を生み出すには、机上の発想ではなく、多様な問題が複合した現場(フィールド)からの発想が求められるからです。
 森里海連環学は、地球生命体の循環系や免疫系ともいえる森と川と海の自然科学的つながりや森と里と海の文化・文明論的つながりの再生をめざす学問と言えます。これは、森と海の国であり、縄文時代以来の自然と共存する文化が根ざした日本から発想し、地球環境問題のブレークスルーとして、世界に発信し得る新たな学問領域と考えられます。それは、目に見えない“つながり”や“めぐり”の価値観を再生する学問でもあります。このような学問の創生は大学の研究室内や机上の思考で実現するものではなく、常に現実社会とのやりとりの中で方向を定め、確かな深化が可能になると考えられます。私達大学人が“縦割り構造”を打破して横断思考の教育や研究の必然性に気づいて具体的な動きを始めるよりはるか以前より、現場に生きる賢人は、理屈を越えて具体的な行動を先行させ、世論を動かし始めています。
 フィールド研は、その理念や目標とする森里海連環学の普及のために社会連携活動を重視しています。中でも2004年度に取り組んだ総合博物館春季企画展「森と里と海のつながり―京大フィールド研の挑戦」ならびに時計台対話集会「森と里と海のつながり―“心に森”を築く」の開催を通じて、森里海連環学の確立になくてはならない“先人”に巡り合うことができました。1人は宮城県気仙沼のカキ養殖漁師の畠山重篤さんです。漁師による森づくり運動の代表として全国的に知られた“森は海の恋人”運動の先導者です。他の1人は長野県信濃町の黒姫山麓に「アファンの森」を作り、崩れ行く日本の豊かな自然の大切さと再生を訴え続けておられる作家のC. W.ニコルさんです。
 フィールド研では、この森づくりの先人を、学問と社会をつなぐ“インターフェーズ”として、「社会連携教授」(Professor of Field Studies and Practical Learning)にお迎えし、新しい学問の創生とそれを担う人材の育成に踏み出しました。フィールド研が全学組織として担う最も重要な教育(全学共通教育)において、社会を動かす大きな仕事を成し遂げつつある賢人に触れること、そして20年以上にわたって積み重ねられてきた自然と社会の再生の現場に触れることは、教室での講義では得られない大きなインパクトを学生に与えることができると期待されます。畠山さんの室根山―大川―気仙沼水系やニコルさんのアファンの森は、今再生しつつある日本の自然の代表的なフィールドとして、長期モニタリングや自然再生の研究フィールドとしても極めて重要な役割を担うものと期待しています。

ニュースレター5号 2005年 7月