舞鶴水産実験所「緑洋丸」新船建造

里海生態保全学分野 助教 鈴木 啓太

 舞鶴水産実験所の教育研究船は代々「緑洋丸」と呼ばれ、若狭湾をフィールドに実験所の教育研究活動を支えてきた。しかし、1990年に就役した「緑洋丸」は経年劣化にともなう各種不具合が顕在化していたため、代船が待ち望まれる状態にあった。2014年度の全学設備整備経費により代船要求が認められ、仕様書の作成、業者への説明、入札と審査を経て、株式会社ニシエフ小浜工場に新船建造を依頼した。建造期間は半年以上におよび、2015年12月24日に新船が納入され、試験航海を重ねた後、2016年3月10日にお披露目式を実施した。本稿では旧船の往時を振り返るとともに新船の特長を紹介し、お披露目式の模様を報告する。
 旧船は繊維強化プラスチック(FRP)製、全長16.5m、総トン数18トン、定員30名、370馬力のエンジン2基を搭載していた。後甲板の油圧ウインチを用い、小型底曳網や大型プランクトンネットにより生物採集を、また、舷側の電動ウインチを用い、水質計や採水器により海洋観測を行うことができた。高校生や大学生が日本海の環境と生物を現場で学ぶ実習、スズキやヒラメなどの水産重要種の初期生活史を究明する調査、海上保安庁や水産総合研究センターとの共同調査など、毎年50~90航海の実績を積み重ねてきた。特に、実習が集中する夏休みは人と物を満載して連日出航することも珍しくなかった。
 新船はFRP 製、全長17.7m、総トン数14トン、定員26名、734馬力のエンジン1基を搭載している。旧船に比べて全長が長く、船室が小さいため、甲板は広がったものの定員は減った。離接岸や海洋観測の際に船首方向を微調整するため、サイドスラスター(横向きの小型プロペラ)が船首に備えられている。また、油圧ウインチと電動ウインチに加え、後甲板には漁業クレーンが設置されており、重量物を安全に移動することができる。さらに、各部屋にはエアコンが設置されており、室内を適温に保つ。新船は旧船の機能を拡充し、総じて安全性と快適性を高めた船と言える。
 お披露目式は実験所を会場に実施した。近隣機関からの来賓、山際 壽一総長と清木孝悦理事をはじめとする学内の関係者、実験所の教職員など合計約50人が参加した。参加者はまず、標本庫や飼育棟などの施設を見学し、新船の航海機器や調査機器の説明を受けた。さらに、希望者は新船に試乗し、環境観測や動物プランクトン採集、底生動物採集などのデモンストレーションを見学した。風が強まるときもあったが、雨が降ることはなく、試乗者は調査風景を興味深く観察していた。式典では、益田 玲爾実験所長が司会を務め、吉岡崇仁センター長が挨拶し、多々見良三舞鶴市長からの祝電を披露した後、小南 昭典ニシエフ小浜工場長に感謝状を贈呈した。祝宴では、山極総長の発声により乾杯し、参加者は、地元企業・組合から提供を受けた練製品を使用した「舞鶴おでん」や魚類各種の昆布締めなど、舞鶴産の食材を活かした料理を楽しんだ。最後に、山下 洋副センター長が閉会の辞を述べ、お披露目式が終了した。
 お披露目式は学内外の関係者に実験所の教育研究活動を理解していただく良い機会になった。「緑洋丸」新造に尽力された方々に感謝するとともに、これを機に実験所の教育研究活動が一段と活性化されることを期待する。

年報13号