国定公園指定と芦生研究林の今後

芦生研究林長/森林育成学分野 准教授 伊勢 武史

 このたび、芦生研究林の全域が京都丹波高原国定公園に指定されることになりました。西日本有数の原生的な自然(芦生原生林として親しまれています)の価値が認められたことをうれしく思います。この国定公園が、今後の自然保護と持続可能な利用のための枠組みとして機能することを切に願っています。
 国定公園指定を機に考えるべきことはいくつかあります。京都大学は、大学教育と研究のために芦生研究林を管理運営しています。50年後、100年後の学生や研究者にも素晴らしい研究環境を提供するためには、貴重な自然への人間のインパクトを最小限にとどめ、持続的に利用することが必要です。
 芦生研究林は大学施設ですから、大学教育と研究を第一に考えなければなりません。それは結果として自然保護につながるのですが、単に自然保護のために保有しているのではありません。もちろん芦生研究林は、一般の観光客へのサービスのための施設でもありません。この点で、通常の国有地などが国定公園に指定されるケースとは異なることを市民のみなさんとともに再認識したいと思います。
 現在、定められた条件のもと一般の方の立ち入りを許可することもしていますが、国定公園指定を機に、その仕組みを再検討する必要も生じます。無秩序な観光利用はオーバーユースによる環境破壊を招くおそれがあるためです。そのために考えるべきこととして、たとえば、積極的に市民に開放し自然の素晴らしさを啓蒙するためのエリアと、一般市民の立ち入りを規制し学術研究と自然保護を最優先すべきエリアを分けるゾーニングがあります。
 また、一般市民を迎え入れることが大学のメリットになるような仕組みをつくらなければなりません。林道や歩道を整備するためにも多大なコストが必要ですので、それをカバーするため、一般の方に資金面での援助をいただく仕組みが必要です。施設の老朽化も進んでいますので、芦生の自然を愛する方々から寄付を募るクラウドファンディングなども検討しています。
 シカの食害による植生の変化は深刻な問題ですが、その一方で、無断で立ち入る人が遭難したり、山菜やキノコを採る(これは窃盗です)人がいたりなど、人のかかわる問題もあります。どのような対策を立てて生物多様性を維持すべきか、今後検討していく必要があります。
 国定公園指定は、芦生研究林の魅力を高め、知名度を上げ、京都大学の教育と研究を向上させるためのすばらしい機会です。その反面、オーバーユースなどの被害が深刻化するおそれも生じます。私たちは、社会や自然の変化に対応した管理運営を進めてまいりますので、今後も学生・研究者・市民のみなさんのご理解とご協力をたまわりたいと存じます。

年報13号