和歌山研究林の災害復旧

和歌山研究林長/森林育成学分野 准教授 長谷川 尚史

 2011年は東日本大震災が発生した年として記憶に新しいが、この年は大型台風がいくつも日本に来襲し、記録的豪雨によって全国各地に大きな被害をもたらした年でもあった。中でも8月25日に発生した平成23年台風12号は、高知県から鳥取県にかけて日本を横断し、特に紀伊半島で大きな豪雨被害をもたらした。奈良県上北山村のアメダスで総降水量1,808.5mm、大台ヶ原で2,436mmを記録したこの豪雨により、紀伊半島を中心に深層崩壊などの土砂災害が頻発し、全国で92名の死者、行方不明者を出した。
 和歌山研究林でも9月1~5日に912.5mmの降水があった。当地における年平均降水量は約2,650mmであり、この5日間に年降水量の1/3以上、4ヶ月分に相当する量が降ったことになる。この多量の降水によって研究林内の湯川川および支流の水位が上昇し、一部で川があふれ林道が削られた。沢沿いの林道は道そのものが川になってしまったような状態となり、路体が流失したほか、木材生産や学生実習等に用いていた広大な土場とバックホウ2台も流失した。当時、河川生態系に関する大規模な調査が行われていたが、その貴重な調査プロットも失われることとなった。地域周辺の国道のほか、事務所へと続く町道や県道も大きな被害を受け、上湯川にある事務所での業務が困難となったことから、2015年3月までは旧清水市街に有田川町役場から仮事務所を借用して、災害復旧にかかる業務を行うとともに、利用者の安全に配慮しながら、教育研究利用も継続して受け入れた。
 本災害の復旧については、文部科学省の災害復旧事業として実施された。2012年度に災害復旧のための測量が行われ(設計は全学経費にて実施)、2013年12月にようやく着工した。この工事は2014年度末までに完工し、また流失したバックホウ2台の代替機も調達された。一方で被災から着工までに2年以上もかかり、崩壊箇所が拡大、増加するとともに、2014年8月には再び平成26年11号台風によって豪雨災害を受けたため、2015年度に再度、災害復旧工事を行った。2016年1月にようやくすべての災害復旧工事が完了した。ただし、すべての被災箇所において災害復旧工事が行われたわけではなかったため、比較的軽微な損傷箇所においては、バックホウが使用可能となった2015年度以降に直営事業によって修復を進めている。
 現在は、再び大きな災害が発生しないよう路網の強靱化を図るため、直営事業による横断排水溝の追加設置や危険箇所の改良、間伐による森林整備を図っているところである。特に近年は時間降水量が増加する傾向があり、従来の常識では考えられないような集中豪雨が発生しやすい状況となっている。2016年には2011年の災害時と同様のラニーニャ現象が発生すると予測されており、降水量が増加する可能性が高いため、早急に森林・路網の強靱化を進める予定である。
 急峻かつ降水量の多い和歌山研究林は、その特質を活かした独特の教育・研究を実施できる環境にある。災害の多い地域にありながら、事務所等の施設は耐用年数を大幅に超えたプレハブであり、一度に多くの利用者を受け入れることはできない状況ではあるが、利用者および教職員の安全確保に留意しながら、教育研究利用の拡大を図っていきたい。

年報13号