ILASセミナー報告2017「京都の文化を支える森林-森林の持続的管理に関する地域の智恵と生態学的知見からのシナリオ作成」

森林育成学分野 准教授 石原 正恵 


 上賀茂試験地、芦生研究林および北白川試験地において、8月28-30日に実施しました(公開森林実習Ibとの同時開講)。経済学部・工学部・総合人間学部の4名が参加しました。このILASセミナーは、文部科学省の地(知)の拠点整備事業で行われる、京都に関わるさまざまな課題を取り上げる京都学教育プログラムの中に位置づけられています。京都は豊かな森林・水などの自然に支えられ、その資源を利用することによって古より発展を遂げきました。多くの文明が環境破壊と生態系サービスの劣化によって失われた事実とは対照的に、京都周辺には現在でも多くの森林や渓流が残り、京都の文化を支えています。本科目では、京都文化を支えるこれらの自然の利用方法や森林に対する人々の智恵を知り、生態学的手法を用いて評価検討し、将来の京都と森林自然の新しい関係を導きだすことを目的としました。
 1日目は京都市内の里山林である上賀茂試験地を見学しました。安全教育、ガイダンスの後、試験地の歴史、特に戦後の荒廃した林分がその後生長してきたことを講義で学びました。その後、試験地を見学し、マツ枯れやナラ枯れ、その後のヒノキ林への遷移、マツを中心とした外国産樹種を観察し、生育している植物の特徴を学びました。芦生研究林では、美山町に移住した猟師の藤原氏から、森のめぐみを活かしエネルギーや水も含め地産地消の生活を実践しているお話を伺いました。学生のレポートでは、現代の生活と自然の関係に考えさせられるきっかけになったという感想や、農山村へのIターンや過疎化の問題についての意見を述べていました。
 2日目は、芦生研究林の杉尾峠から上谷を抜け長治谷までを歩き、上賀茂とは対照的な原生的な森林そして由良川源流域を観察しました。防鹿柵の内外を比較し、シカによる食害による下層植生の衰退を実感し、さらには土壌・河川生態系への影響についての研究成果の解説を受けました。事務所に戻り、樹木の識別、前日設置したライトトラップで採取した昆虫、渓流水質の分析を行いました。学生からは、植物の多様性に感銘を受けた、昆虫や水質は今まで注目したことがなかったので良い機会となった、環境によって水質が異なることを学べてよかったという意見がありました。夕方には実習を通して得られた観察結果を、北海道研究林で行われていた京大農学部生対象の研究林実習(III)とテレビ会議を用いて交換・議論しました。
 3日目は、京都市有のスギ人工林、(株)北桑木材センターを見学し、京都府での木材の生産現場から利用・流通について教員から説明を受けました。その後、(株)カモノセログでは、地域産材、特に大径木や今まで価値が低いとされてきた木材を住宅に用い、ライフスタイルの提案を含め、林業と森林の課題に取り組んでおられるお話を伺いました。林業を中心とした森林と人間の関係性や将来について、考えさせられました。最後に京都大学吉田キャンパス内にある北白川試験地を訪れ、見本園と材鑑室を見学しました。
 本年は例年以上に実習が多い中、ILASセミナーの実施において芦生研究林、上賀茂試験地、北白川試験地の職員の方々に大変お世話になりました。お礼を申し上げます。