森林フィールド教育共同利用拠点の実習検討会

森林育成学分野 特定助教 中川 光

 2017年3月21日(火)に上賀茂試験地において,「人と自然のつながりを学ぶ森林フィールド教育共同利用拠点」における教育研究活動と参加学生への理想的な学習フォローアップの充実を目的とした検討会を開催した。検討会当日はフィールド研教職員および学内外の学生・教職員あわせて21人の参加があり,招待した学外の学部学生・大学院生4人および学内学生2人による2016年度の参加実習や拠点施設の研究利用についての紹介および今後の実習の充実のための提案などについての発表が行われた。
 発表に続いて行われた質問コーナーでは,公開森林実習II(北海道研究林)に参加した学生より「間伐後の下層植生の遷移はどのように進むのか?」や森里海連環学実習I(芦生研究林・舞鶴水産実験所)に参加した学生より「河川でプランクトンが少ないのはなぜか?」などの質問が出され,それぞれ専門分野の近い教員が返答した。
 次に行われた討論においては,学生・教職員ともに活発に発言がなされた。「今よりも基礎を広く網羅する実習が欲しい」という意見の一方で「教員の専門性を活かしたより深い内容の実習が欲しい」という意見も出され,拠点として提供する実習ごとの位置付け,すなわち基礎知識に乏しい他学部学生や1, 2年次生に基礎知識を身につけさせるのか,それとも一定以上の知識を持った理系の学部学生などに発展的な内容を経験してもらうのかなどをより明確化し,実習を受ける側に選択肢を提示していくことが課題として明確化された。また,実習中の作業量や学習内容が多く,習った内容を学生自身が振り返って整理する時間が不足しているとの意見も出された。現状では,本拠点が行う公開実習では,実習最終日または最後2日をデータ整理と成果発表の時間としているが,長期の実習においては作業の少ない中日の設定や,実習期間後の質問等の対応窓口の設置とその後のレポート提出なども,学生の学習効果向上に資する可能性が検討された。この他,芦生研究林を利用した大学院生から,調査地への交通手段による研究の制限の問題や,2016年度より試験的に導入されたテレビ会議システムを用いた遠隔地連結授業における通信速度の不足などについて意見が出された。
 検討会の総括では,岡山大学の廣部准教授より,全体の講評とともに,特に実習施設を持たない大学にとっては公開実習の制度は非常に有用であること,一方で担任制度の無い大学での学生への公開実習の情報伝達の難しさや多くの公開実習が学内実習や他大学の公開実習と日程が被っているため日程調整が必要と考えられる現状が紹介された。
 検討会翌日には,「人と自然のつながりを学ぶ」エクスカーションとしてフィールド研教員6人と検討会参加学生5人が仁和寺(京都府京都市右京区)の修理保全事業現場の見学を行った。普通では見る機会の無い,大型木造建築物の構造部分を拝見し,京都府教育庁職員による,建立当時の木材供給事情や,文化財修理の理念と実践に関する解説を聞いた。江戸時代に再建された大型木造建築物の修復には用途に応じた様々な木材が使われていることがわかり,具体的な資源として人々に供給される木材と自分たちが実習で調査した森林とをイメージでつなげることのできる非常に有意義な視察となった。

(初出: 拠点ウェブページ)

年報14号