ILASセミナー報告2018「貝類の不思議」

基礎海洋生物学分野 助教 中野 智之



 2018年5月3日(木)から6日(日)にかけて、和歌山県白浜町にある瀬戸臨海実験所を拠点として、ILASセミナー「貝類の不思議」を行いました。参加者は、法学部1名、理学部1名、医学部1名、薬学部1名、農学部1名、工学部3名の合計8名が参加しました。例年このILASセミナーでは、磯観察や貝類の解剖などを行いますが、今年は京大所有の畠島における「海岸生物群集1世紀間調査」の年に当たっており、今年のセミナーではこの調査の補助・筆記を通して、貝類について学ぶこととしました。
 畠島は和歌山県南部の田辺湾内に位置する無人島で、砂泥底、砂浜、岩礁、転石などの様々な環境があり、多種多様な海洋生物が棲息しています。1960年代にこの島の観光開発の話が持ち上がったため、その貴重な自然の保護を目的として、1968年に京都大学瀬戸臨海実験所の用地として、国によって買取られました。そして半世紀にわたり、様々な海洋生物の研究、教育活動に畠島を利用してきました。この調査は、海洋生物相の長期的変動、動態を環境の変動とともに、1世紀間モニタリングしようとするもので、人間活動の影響が海洋生物に与える影響を考える上で重要なデータにもなり、注目を集めています。
 実習生は、貝類の担当班に分けられ、貝類のよく分かる研究者と共に畠島のあちこちに散らばりました。この調査では、畠島全体を43区画に分け、その中で86種の底生生物の個体数の密度をチェックします。貝類としては32種が対象です。最初の調査区では、アラレタマキビ、イボタマキビ、タマキビがどこがどう違うのか分からなかったものの、調査が進むにつれ段々と貝類の同定能力があがり、2日目の調査では、ゴマフニナ、ホソウミニナ、カヤノミカニモリの見分けがつくようになっていました。
 実習最終日には、もう少し貝類の勉強をしたいとの申し出があったので、マツバガイという巻貝の解剖を行いました。巻貝には、「歯舌」という歯があることを伝え、実際に解剖してみると想像以上の長さの歯舌が出てきたので、実習生は驚いたようでした。その後、実習室の掃除をし、アンケートとレポートの仮提出をしてもらい解散としました。
 今年は5年に1度の畠島全島調査の年ということで、実習生にも調査に参加してもらいましたが、実習生たちは貴重な経験ができたと大変満足そうでした。次回の5年後の調査では今回の実習生たちは卒業してると思いますが、やる気のある方はまた参加してもらいたいと思います。