畠島全島調査

基礎海洋生物学分野 中野 智之


 畠島は、瀬戸臨海実験所のすぐ近く、和歌山県南部の田辺湾内に位置する無人島で、面積約2.6ha の島と550㎡の小丸島が広い潮間帯でつながっています。岩礁・転石・砂泥地などの多様な底質が見られ、ここを一周するだけで田辺湾周辺の海岸生物を一通り観察できる貴重な場所です。1960年代、この島を観光開発する話が持ち上がったため、その貴重な自然の保護を目的として1968年に国によって買取られました。私たちは、この素晴らしい島を保護区・調査区として活用し、海岸生物相の長期モニタリングを行っています。
 2018年5月3日から3日間かけて、5年に一度実施する畠島全島調査(全島43区画にいる底生生物86種の個体数調査)、および畠島南岸調査(南岸の岩礁16区画で発見したすべての動植物を記録する調査)を行いました。参加者は、実験所メンバーを中心に、奈良女子大学、和歌山大学、大阪芸術大学短期大学部、大阪市立自然史博物館などから34名が参加し、軟体動物5組、甲殻類+環形動物5組、棘皮動物+刺胞動物+その他2組、藻類1組の計13グループに分かれました。今回初めて参加する学生もいるので、調査方法の説明だけでなく、畠島が国有地となった経緯や、長期的な調査の意義、1963年からほぼ毎年実施しているウニ調査をまとめた論文などを解説しました。長らく共に調査してきた仲間との再会もあり、調査へのモチベーションがあがりました。
 4日は朝から畠島へ渡り、調査地に散らばって調査開始。午後には潮が随分と引いたため、ほとんどのグループは一番沖合の調査区に移動しました。1日目が終わると、甲殻類グループと藻類グループはほぼ調査を終えていましたが、調査項目が多い軟体動物グループでは、まだ半分以上の調査区が残っていました。
 5日、前日の調査の進み具合をまとめた後、調査の終わった甲殻類グループには軟体動物の調査を手伝ってもらいました(「えー、終わったと思ったのに」という声が聞こえた気がしましたが)。調査も2日目になると効率良くなっており、全ての調査区の調査をスムーズに終えました。
 実験所は、この豊かな海岸生物を保護するため、地元の漁協とともに畠島への上陸を禁止しています。しかし、今回の調査期間中だけで無断上陸が3件あり、そのつど、ここが大学所有の島であること、海洋生物の保護区・調査区であることを伝え、島から退去してもらいました。調査最終日には、夏から放置されていたであろうレジャー用の机、椅子、バーベキューコンロなどを、島のあちこちから拾い集めました。
 長期にわたる一連の調査結果は、地球温暖化や海洋汚染などの人間活動が海洋生物に与える影響を考える上での貴重なデータであり、国内外から注目を集めています。重要な調査・研究が畠島で行われていることを一般の方にもご理解いただき、無断上陸やゴミの放置が無くなることを望みます。

ニュースレター45号 2018年6月 研究ノート