実習報告2017「博物館実習(館園実務):瀬戸臨海実験所」

基礎海洋生物学分野 助教 大和 茂之

 2017年の全学共通科目の博物館実習(館園実務)は,10月16日(月)から20日(金)までの日程で,瀬戸臨海実験所で実施された。参加者は,理学部と農学部と理学研究科から各1人ずつの3人であった。瀬戸臨海実験所では,学芸員資格修得を希望する学生を対象に,以前から博物館実習を水族館で行ってきたが,近年は京大生の受講はなかった。京大生向けの実習としては,今回が昨年に続いて2回目の実施であった。
 京都大学の全学共通科目として実施するにあたっては,水族館における実習に加えて,自然博物館に関する講義(朝倉彰担当)と,動物分類学の研究標本(模式標本を含む)の取り扱いに関する実習(大和担当)などを追加している。水族館の実習は,飼育担当の技術職員(加藤哲哉,原田桂太,山内洋紀)が担当した。
 水族館における実習では,海洋生物の飼育・展示に関する作業全般を,実際に体験させた。項目としては,開館準備,餌の準備,飼育生物への給餌,機械の点検,濾過槽の管理,展示生物のチェック,展示解説の作製,ホームページの更新,閉館作業など,朝の8時から夕方の5時まで,飼育担当の技術職員と同じスケジュールで,作業を行った。また,水族館から出て,白浜駅に展示している水槽のメンテナンスや,野外での魚類の採集も行なった。採集では,釣り具の準備から,種の同定・記録,水槽への収容までを体験した。かなり体を動かす作業が多いので,普段デスクワークを中心としている学生には,多少きつかったようであるが,多様な生物に触れつつ,水族館の作業を一通り体験することが出来て,充実した日程であったようである。
 初日の講義では,日本の博物館の現状とともに,実際に訪問した世界の博物館の紹介を交えながら,自然博物館の概要を説明した。
 最終日には,瀬戸臨海実験所が所蔵する海産無脊椎動物の標本について,実習を行った。研究標本は,特定の日時と場所で採集されて,特定の研究者に研究された唯一のものであり,論文などの記述やデータの証拠となるものである。特に模式標本は,新種として発表されたときに,指定された標本であり,国際的にも保存が義務付けられている。このような標本を保存・管理することの意義について学んでもらうとともに,データベース化の作業の一端を体験してもらった。
 水族館の年間スケジュールの都合で,本年度は10月の中旬にしか日程が取れなかった。そのために,10月初旬にガイダンスを実施して,すぐに実習となった。水族館の作業では,手取り足取りの説明が必要なため,受け入れ定員が最大3名までとなっている。日程調整や事前の準備なども大変ではあるが,京都大学における博物館相当施設の一つとして,今後も貢献していきたい。