ポケゼミ報告2010「原生的な森林の働き」

森林環境情報学分野 中島 皇 講師


 今年度は5月、6月に1回ずつ北部キャンパスで1コマセミナー、6/20(日)には上賀茂試験地で1dayセミナー、7月に芦生研究林で後述の合宿形式セミナー(2泊3日)を行った。参加者は5名(男3、女2)とポケゼミとしては理想的な人数であった。学部別は(理1、工1、農3)、出身地は宮崎市、福山市、豊中市、豊橋市、伊那市と九州地方から中部地方までの違う環境で育った仲間が集まった。フレッシュな新入生諸君がフィールド(森林)に出て、自ら体験し、考え、自然と人間の関わり方に興味を持つ契機とすることがこのセミナーの目的である。
 芦生での集中セミナーは、7/3(土)の広河原バス停集合で始まった。バスを降りるといきなり傘がいる雨に迎えられての実習開始である。芦生に移動して昼食をとり、身支度を整えて雨の中を由良川本流沿いのトロッコ道をのんびり歩く。芦生の標高が低い谷沿いの自然を観察しながら行くが、由良川源流最後の民家にある田んぼのシカネットに並んでいるアマガエルには大はしゃぎであった。これは雨の御陰である。夕食は鍋。夏でも夜になれば鍋ができるのが、芦生の良いところ。夕食後は芦生研究林が抱えている問題点を話し合った。
 7/4(日):天気はやはり雨模様、しかし傘まではいらないか。昼食のにぎりめしを作って出発した。幽仙谷の大面積・長期プロットと暖温帯と冷温帯の移行帯についての説明を受け、ヒカゲノカズラなどの珍しい植物や林道の水たまりにあるモリアオガエルの卵に触れながら、標高差で400m程上がっていく。杉尾峠下からブナの林に入る。尾根筋では霧がまいてなかなか幻想的な光景。芦生の森では10年くらい前からシカが増え、林床にはシカが嫌う植物以外はほとんど生えない状況になっている。傘をさしてのんびり上谷が歩ける現状は、昔の藪こぎを知る者にとって、この森にさえ影響(多くは人の)が及んでいることを悲しいと思わざるを得ない。小雨の中、途中の木の下で何とか昼食をとり、ウツロ谷のシカ柵プロットの昆虫調査やかつての木地師たちの住み跡を確認しながら、長治谷へ。午後も小雨。川の水量は多少増加していたものの、今年のメンバーの足回りは100点で、流量観測も難なくこなした。その後、下谷では大桂、二次林と人工林を観察し、幽仙谷では天然林からの流出物を回収した。夕食はお好み焼き。焼きながら、食べながら、作り方談義に花が咲いた。TAである先輩たちの研究紹介では、今年も質問時間がなかなかの盛況であった。
 7/5(月) 昨日の流量観測データをレポートにまとめ、回収してきた流出物と水生昆虫の観察とデッサン。最後に宿舎・食堂の片付けとフィールド研からのアンケートを書いてセミナーは終了となった。感想文には、芦生の森に触れた興奮と2泊3日の心地よい疲れと満足感が率直に表現され、将来の抱負なども述べられていた。この感想文を見ていると、TAの院生諸君による良い影響が表れているのだろうと感じている。