ポケゼミ報告2011「森里海のつながりを清流古座川に見る」

里地生態保全学分野 梅本 信也 准教授


 2011年8月22日(月)から26日(金)まで、紀伊半島南部の古座川流域と串本湾岸域、合計約400km2に展開する里域生態系構成要素連環の実体感をメインテーマにしたポケゼミが行われた。文学部、理学部、工学部、農学部1回生の合計7名が参加した。前半の聞取り調査期間は天候に恵まれ、照葉樹林に囲まれた紀伊大島実験所宿泊棟での共同生活は軽快に、そして朝晩は涼しく過ごせた。
 初日は京都大学におけるポケットセミナー設置の意義と経緯を紹介し、資源博物学的調査方法や調査時の諸マナーの説明を行った。「古座川合同調査報告集・第1、2、3、4、5巻」、「清流古座川物語」、「里域食文化論入門」、「里域震災論入門」、調査用地図などの資料や調査用野帳を配布、古座川流域と串本湾岸域の概観、地形、気象、植生、土壌、生物相、文化相の概要を把握させた。聞き取りと観察によって今年度は古座川ならびに串本湾岸域の各地区における食文化多様性と成立要因を探らせた。具体的には古座川流域および串本湾岸域における伝統食、日常食、ハレ食を地域構成要素とどのように結びつけて住民が捉えているのか、地域食文化相に微視的なパターンがあるのかを調査することがテーマであった。一連のガイダンスの後、紀伊大島実験所構内に広がる照葉樹林で里域植物の文化的資源的価値に関する野外講義を行った。
  

 第2日は各班2~3名からなる合計3班を編成し、古座川河口域の串本町中湊地区、串本湾岸域の同町樫野地区を訪問し、景観観察とアポなし聞き取り調査を行い、情報提供者ごとの基礎カルテを作成した。この種の調査は学生にとってまったくの初体験であり、南紀方言の問題、学生同士の心的距離の問題なども相まって最初は戸惑いがあったが、聞取り相手の心に自己の心を同調させる術を自ら体得し、聞取り技術が急速に向上していった。移動中の車内では積極的な仮報告や議論が続いた。例年通り、学生の目が本来の輝きを取り戻し、他人への心配りが日に日に向上した。

       
 第3日は中流域の古座川町高池と串本湾岸域の串本町大島地区で調査を展開した。調査完了後には紀伊半島南端の地質学的サイトを見学、過去6000万年間の歴史について講義した。住民から伝統生活用具やアジの干物を頂戴した。
 第4日はデータ整理やレポート作成作業に入った。まず、基礎カルテを集結、全員で取得した情報の共有化を図った。分量はA4のレポート用紙で厚さ2.0cmにもなった。集成した情報を踏まえて、森里海連環、古座川と串本湾岸域、食文化、地域性、歴史変容といったキーワードで構成される共同レポートを作成した。教科書的な世界とは異なり、現実の里域フィールドは複雑に繋がっており、驚異や多様性に満ち、さらに事実には重層性や奥行きがあることを学生は実体感できたように思われた。
 第5日目は、宿泊施設の片付け、発表会、レポートならびにポケゼミアンケート提出が行われ、正午前に解散となった。例年通りではあるが、共同での調査作業、共同での宿泊生活を重ねていく過程で、学生の顔や言動にエネルギーが満ちていくのが指導教員として嬉しく思われた。(2011年8月26日)