ポケゼミ報告2011「森を育て活かす-林業体験をとおして考える」

里山資源保全学分野 准教授 長谷川 尚史


 現在,日本には2500万haの森林があり,国土に占める森林の比率は68.2%と,先進国の中ではフィンランドに次いで2位である。その4割(1000万ha)が人工林化されているが,近年の林業不振により利用が進まず,間伐遅れによる森林荒廃や過疎化など,様々な問題を抱えている。本セミナーでは,植栽,下刈り,間伐,集材など,伝統的に日本で行われてきた林業作業を体験するとともに,最先端の林業の作業現場を見学し,また山村で暮らす人々と交流を行うことによって,森林と人間社会との関係を幅広い観点から議論することを目的に,本年度より開講した。これらの実習は森林科学科でも近年は行われなくなっているが,世界有数の森林国である日本では,様々な社会要素が森林に直接的,間接的に関与しており,来るべき循環型社会の中で森林資源の持続的利用法に関する議論には,農学・理学だけでなく,様々な専門分野の人材育成が必要となっている。本セミナーは,古くから森林とともに文化を育んできた日本において,森と人との共生関係の歴史と現状を学び考える機会を提供することによって,国内だけでなく地球環境および国際社会についても森林国ならではの視点で捉えることができるような人材育成への寄与を期待している。
 本年度はその1回目として,8/10~13の4日間,芦生研究林および周辺地域において開催した。参加学生は法学部1名,工学部6名,農学部2名の1回生9名であった。このほか,TAとして森林育成学分野院生2名が指導を補助した。
 初日午後に京都大学本部を出発し,食料等を購入した後,芦生研究林においてガイダンスおよび芦生研究林の概要に関する講義を行った。2日目は午前中に芦生研究林枕谷において,地拵えと植栽,シカ柵設置の実習を行った。植栽した苗木には,北白川試験地で育成されたハイイヌガヤおよびホウノキを使用した。2日目午後はサワ谷の間伐予定地において毎木調査を行い,夕方には下谷の大カツラを見学した。夕食後,毎木調査データの整理を行い,間伐木の選定と間伐前後の蓄積量算出および樹冠投影図の作成等の内業を行った。3日目は実際に間伐木の伐倒,造材,集材を行った。集材作業には,上賀茂試験地から借用した林内作業車を使用した。3日目夕方は,事務所構内にて,地元との交流会を行った。お盆前であり,地元からの参加者は3名のみであったが,職員を交え,昔の山での暮らしなど,貴重な話を聞くことができた。最終日は宿舎を清掃した後,美山町北村において茅葺き集落および民俗資料館の見学を行った。民俗資料館では,係員の方に丁寧な解説をしていただいた。その後,日吉ダム湖畔で昼食を取った後,日吉町森林組合を訪問し,間伐作業現場において,最新型ハーフクローラ式国産フォワーダおよびホイール式ハーベスタの見学を行った。特に,ハーベスタには,各学生に操作させていただき,世界最先端の林業機械を体験した。
 レポートは実習終了後に個別提出とした。森林が自分の専門分野とは無縁と考えていた学生からも,森林の相続や労働環境(法学部学生),林業機械の開発や路網(工学部学生)などの分野で貢献すべきことが多くあり,今後の学習に活かしたい,という声が聞かれ,幅広い分野の学生の人材育成という初期目標の第一ステップは達成できたと考えている。
 当セミナーの開催にあたっては,芦生地区住民,民俗資料館,日吉町森林組合の皆様に多大なご協力をいただいたほか,芦生研究林・上賀茂試験地・北白川試験地職員にも協力していただいた。この場をお借りしてお礼申し上げる。