ポケゼミ報告2012「海岸生物の生活史」

海洋生物系統分類学分野 准教授 久保田 信

 5名(農2女, 薬1女, 理1男, 工1男)の参加(定員4名)で2012年5 月3 – 6日に実施した。自然環境に恵まれ風光明媚な白浜町(和歌山県)に産する動物を中心に、伝統ある水族館を有する瀬戸臨海実験所の周囲の海岸において実地授業を行った。主な実習内容は、(1)海洋生物の多様性の解説(教科書:拙著「宝の海から」)と図鑑での学習;(2)プランクトンの採集と観察およびクラゲの形態とGFPの検鏡;(3)漂着物調査(番所崎と実験所“北浜/南浜”);(4)磯観察(番所崎)と番所山の自然観察;(6)瀬戸漁港の生物観察;(7)実験所構内に出現する夜行性熱帯性動物の観察と地球温暖化の説明;(9)水族館で飼育展示中の諸動物分類群の解説と観察; (10)南方熊楠館で粘菌の観察:(11)特製DVD・CDで、特に不老不死のベニクラゲと早死のカイヤドリヒドラクラゲ(担当者のライフワーク)の解説と歌。

 多様な生物群を自然あふれた現場で実地実習する有効性と整った設備と廉価な施設使用料(クリーニング代以外は無料)の滞在費の負担(食費含め1万円程度)は、交通費の実費にもかかわらず決して重くない。日本最古で質のよい温泉で、フィールドワークの疲労も吹き飛ばした。参加者5名の実習の感想の一部を紹介する。「人間関係、実習ともに良いものを築くことが出来て何よりでした。ベニクラゲはとても神秘的な動物で、不老不死という人間の夢を実現できていることはすごいことだ。同時に、クラゲを愛するあまり作った様々な曲に脱帽です」。「白浜の自然の中の生物をたくさん見せて頂けて非常に勉強になりました。楽しかったです」。「ベニクラゲ音頭は明るくて歌いやすくとても好きです。今回のメンバーとカラオケに行ったら、皆で歌います」。

 本実習はいくら時間があっても足りない。その理由は、生命の母なる海には未知な生物が無数に、多様に、時空的に変化しながら、お互いに影響しあって存在しているからである。例えば145万種もの動物は最細分しても、たった44門。この基礎を得心し、これからの人生で、地球の同朋者として生きている彼らの個々の一生、つまり、配偶子から受精卵・幼生・幼体・成体・老齢体など、「生活史」のことを常に頭におき、個体・種全体・特定地域個体群・地球全生物の現在・ 過去・未来に思いを十二分に寄せること。人間以外は非情な“食う食われるの関係”で種の存続が成り立っている「食物網」にも留意し、現存できる“おごそかさ”を十分にかみしめること。人間として生まれた幸せを納得すること。以上のポイントを心得ておくことこそ人間の義務です。今後、多様な「宝の海洋生物」、特に岸辺で出会える様々な生き物に、人生をかけて、あるいは趣味として、めいっぱい親しもう・何かすごいことを究明しようといった思いが芽生えてくれば、本実習に参加した意義あり。3大テ-マ:(1) ベニクラゲの若返りのメカニズムの解明とその人類への応用;(2) 造礁サンゴ類・サンゴイソギンチャクに習って人工光合成で食糧問題の解決;(3) 南海・東海大地震の予測、これらに加えて、海に潜む生物の様々な秘密を発掘・研究・応用する醍醐味を夢にみましょう。最後に、実習に参加した先輩とのよき交流も続行して下さい。