ポケゼミ報告2010「海岸生物の生活史」

海洋生物系統分類学分野 久保田 信 准教授

 ポケゼミ「海岸生物の生活史」は、新緑萌え太陽キララな5月のゴールデンウィークに瀬戸臨海実験所で実施するのが恒例となっている。2010年度の参加者は、文・理・医・工・農学部の7名であった。瀬戸臨海実験所周辺の磯浜海岸や漁港でフィールドワーク中心に、地元産動物を飼育展示した水族館も活用し、標本やオリジナルDVD/CDも駆使した。学生達は、動物の形態・行動の観察・スケッチ等を通し、各々いかなる特性があるのか、「宝の海から」等の参考書や論文などで調べまとめる課題に取り組んだ。
 参加者は、ベントスとプランクトン採取を行い、想像を絶する親子関係を確認した。また、「地球の住民たち,動物篇」で現地球に生きる144万動物種の門ランクへのまとめを学習した。さらに、生活史を繰り返し逆転できるベニクラゲの若返り奇跡の各発育段階を実際に観察し、森・里・海の生命体相互営みで息づいてきた太古からの歴史と未来へ思いをはせることができたのではないか。多様動物群を現場で実地体験する有効性はもとより、専攻の異なる者同志が寝食共にし、整った設備と廉価な宿泊施設で親交も深めた。
 受講生からは、次のような感想があった。「漂着物採集、漁港見学、夜の水族館など・・・全てが新鮮でただ感激と驚きでいっぱいでした。いくらでも器具が使え蔵書が読め、調査ができる環境を与えて頂き、京都大学らしさを実感しました。」「人間以外の生物には個にそれぞれの名前はない。その言葉にドキリとした。生存競争の中で暮らし、誰かに名前を知られることもなく死んでゆく生物たち。・・・人間に生まれてこれたことを本当に感謝した。苦しいことがあってもこれを思えば頑張れそうだ。・・・しかし、これ以上生態系を壊してはいけない。地球上に住む一員として、他の生物たちと共によい世界をつくっていきたい。」「いろいろな幼生とオトナになった時の姿の違いに驚きました。他にも様々なことをたくさん体験でき充実したGWをすごせました。」
 受講生には、次のようなメッセージを贈った。「微小な幼生から大型の成体まで海産動物の多彩な顔ぶれに現場で少しでも多く触れあい、ラボや水族館で観察をしてもらえた。この方面の深い知見を得るにはいくら時間があっても足らない。なぜなら生命の母なる宝の海には既知・未知生物が無数に多様に時空的に変化しあい、お互い影響しあいつつ存続してきているからだ。現生144万もの動物種が41門に分類できる基礎を心得、動物門ごとに、綱以下、最小ランクの種まで留意し、今後のそれぞれの人生で地球同朋体の一生、つまり卵から成体へ成長し子孫を残し死んでゆく、連綿と続く「生活史」を常に頭におき、懸命に生きる個体・種・地域個体群・地球全生命体の現在・過去・未来に思いを十二分に寄せてもらいたい。厳しく無情ともいえる食物網中で現存できる人間の特権を理解できれば、個々の生物を慈しみ愛せるはずだ。 助け合い励ましあい、高めあえる人に誕生できた幸せを肝に銘じてほしい。生命の星が、おのずと愛おしくなると想う。海洋生物中に興味が湧きあがる何か1種を見つけられ、その生活史を究明し、隣人に語らんとする希望が芽生えれば、本実習参加の意義がさらにあるだろう。」

(旧アドレス http://fserc.kyoto-u.ac.jp/main/pocket/h22/10kubota01b.html, http://fserc.kyoto-u.ac.jp/main/pocket/h22/10kubota01a.pdf)