ポケゼミ報告2009「海岸生物の生活史」

講師:フィールド科学教育研究センター 助教授
海洋生物系統分類学分野 久保田 信


11名(農1男3女; 医1男; 理1男; 薬1女; 経済1女; 法3男)の参加で、自然環境に恵まれ風光明媚な白浜町(和歌山県)に所在し、無脊椎動物や魚類の飼育展示で伝統ある水族館(開館79年)を有する瀬戸臨海実験所(1922年創立)の周囲の海岸において、実地授業を実施した。主な講義・実習の実施内容は:(1)知られざる海洋生物,とりわけ無脊椎動物が海洋ですこぶる多様である解説をはじめ、固定標本・ビデオ・図鑑・DVDなどを用いて,動物の形態や行動などの観察・スケッチ・同定;(2) 磯浜観察(番所崎・実験所“北浜と南浜”); (3)漂着生物の観察(同上);(4) 瀬戸漁港での観察;(5) 水族館で,飼育展示の磯浜・漁港で観察しづらい動物群の観察・スケッチ;(6) 反省会(オリジナル曲、♪「地球の住民、動物篇」、♪「ベニクラゲ音頭」、♪「スカーレット・メジューサ」、♪「エデイアカラのクリ-チャ-」、♪「生命の星」などの海洋生物曲の紹介を含む)などを実施した。多様な動物群について,自然あふれた現場で実地実習する有効性はもとより、専攻の異なるもの同士が寝食も共にし、整った設備と廉価な宿泊施設使用料(交通費と食事代を除く滞在費負担 1300円)は決して重くない。日本最古で質のよい温泉で、よく動きまわったフィ-ルドワ-クの疲労も吹き飛ばせるメリット,卓球,カラオケなどでの親交もできた。 少人数セミナ-受講生全員の感想(一部)を紹介する。「フィールドワークなどで学びながら親交を深められ、夜の水族館や裏側など普通できない体験もでき充実していた。また、白浜を訪れたい」「聞かせて頂いた動物門の歌詞は非常に深く、手足もなく、知能も優れないため下等と見られがちだが、人間の持たない能力を持つため、一概に上・下等と決めつけてはいけないと思いました」「このポケゼミでの本来の目的である海洋生物の観察もできたし、生命の尊さを学べ、地球環境を大切にしていきたいです。あっという間で、里帰りするよりずっと充実した楽しいGWになった」「普段見られない多くの実物を見れたし、それらに関心を深められた。初対面に人同士、本当に打ち解け、とても楽しい時を過ごせ充実したGWとなり、このゼミを受講でき本当によかった」「ものすごく細いポリプなのに大きい餌を一飲みしたのにびっくり。クラゲは卵からミニクラゲとして生まれると思っていたのでポリプからには驚いた。・・・」「本当に楽しく、みんなと先生と白浜の海に感謝です」「充実の5日間に,普段できないことができた上、白浜は何よりも景色が綺麗で温泉も気持ちよく、もう一度来てみたい」「夜の自由学習時間に生物を採集したが、発光性ウミウシなどがとれ感動した。非常に密度の濃く充実したGWだった」「海へ入れるような仕度をしてくればよかった。5日間はとても短く、また行きたいと思った」「とても楽しみながら学べた。安かった。京大のすごさを改めて充実した。思い出になった」「実地での研修は将来をリアルに想像させてくれます。生物は一生かけて研究してもきっと面白いと知りました。また、自分の新しい人格、こんなにも知りたい気持ちが強いことも発掘しました。これからの人生で重要な意味を持つ期間だったに違いないです」

講師から受講生へのメッセージ
最終日の雨天を除き、天候に恵まれ、穏やかで暖かく、微小生物から肉眼で見える大形動物まで、多様な海産無脊椎動物や魚類など、多彩な顔ぶれに現場で触れることができ、ラボでも観察できました。水族館では、白浜に生きる700種ほどの様々な動物門の分類と進化について簡潔な解説をし、海辺で見られなかった多様な動物分類群を、水族館の展示ラベル・解説で基礎的な生物学的事項が学習させられました。中でも、複雑で生活史を逆転させる,いわば蝶が芋虫にもどるような一生を送り,かつ動物でこれ以上の生活史を送れないほどのベニクラゲの神秘に焦点をあてました。実のところ、この分野の知見を得るには、いくら時間があっても足りません。その理由は、生命の母なる海、”宝の海”には、未知な生物が無数に、多様に、時空的に変化しながら、お互いに影響しあって、存在し続けてきているからです。動物だけをとっても、目下生きている144万種もの動物は、最も細分すると41門に分類できますが、この基礎を心得、動物門ごとに、綱以下,最小階級である種・亜種までも今後は留意し、皆さんのこれからの人生で、地球の同朋者として生きてきている彼らの個々の一生、つまり、配偶子から受精卵・幼生・幼体・成体・老齢体など、一生、つまり「生活史」のことを常に頭におき、個々の個体や種全体のあるいは特定地域の個体群、そして地球全体の現在・過去・未来に思いを十二分に寄せて下さい。また、人間以外は,非情と言える “食うか食われるかの関係”で種の存続が成り立っている「食物網」にも留意し、現存する“おごそかさ”を十分かみしめ、個々の生物を慈しみ愛して下さい。なんといっても、助け合える人間に誕生できた幸せを納得しましょう。以上のポイントを常に肝に銘じておくこと、これこそ、人間の義務です。今後も多様な宝の海洋生物、特に岸辺で出会える多種多様な生物に、趣味として、人生をかけて、めいっぱい親しんでみましょう。興味をもった1種でいいので,その近縁種を含んだ生命体の謎を究明しようといった思いなどが芽生えてくれば、本実習に参加した意義があります。3大テ-マ:①ベニクラゲの神秘の若返りのメカニズムの解明とその人類への応用;②サンゴやサンゴイソギンチャクのような光合成の活用、人工作製による食糧問題の解決;③生物を用いた大地震の予測をはじめ、海洋生物の秘密の発掘・研究・応用の醍醐味を夢に描きましょう。最後になりますが、短期間でしたが、ともに実習に参加した同級生の学部内・間のよき交流を今後も続行し,いつでも瀬戸臨海実験所を訪れて下さい。

- 実 習 の 様 子 -

実習の様子


講師と実習参加者