ポケゼミ報告2012「フィールド実習“森は海の恋人”」

里山資源保全学分野 准教授 長谷川 尚史

 2012年度フィールド実習“森は海の恋人”を,8月19日から25日まで(移動日を含む)宮城県気仙沼市を中心にした地域で開催した。2011年3月に東日本大震災が発生し,水山養殖場も施設の大半が流出するという大変な被害を受けた中,被災直後の昨年に続き,復興作業でお忙しい中で開催させていただいた。
 本年度は部局活性化経費における対象事業として募集数を8名に増やし,引率教員2名(長谷川尚史・中野智之),TA2名の体制で実施した。参加学生は法学部2名,医学部1名,工学部2名,農学部4名の9名,総勢13名(男性6名,女性7名)であった。宿泊は昨年に引き続き,畠山重篤氏(京大フィールド研社会連携教授・水山養殖場)らが植林活動を行っている森の近くに位置するひこばえの森交流センター(岩手県一関市室根町)で,地元の方々によって大変おいしい地元食材を用いた朝夕食を提供していただいた。
 8月19日夕刻に先着者のみ仙台駅で打ち合わせを行った後,20日朝に夜行バス組を合わせて再集合し,2台のレンタカーで塩釜,松島,石巻,女川,南三陸などの海岸沿いの町を経由して,夕方に気仙沼市に到着した。昨年に比べてずいぶんと復興の気配は見えたものの,多くの町は全く手つかずのまま放置されており,学生達にも大きな衝撃を与えたようであった。水山養殖場のある舞根地区もまだ津波の傷跡は大きく残されていたが,牡蠣の養殖は再開されており,様々な話を聞くことができた。
 21日は畠山氏の操舵するボートで湾内を巡り,畠山氏の解説を聞くとともに,網によるサンプル調査によって復活しつつある生物相を観察した。昼食時に取れたてのホタテをごちそうになった後,午後は気仙沼湾にそそぐ大川を遡上し,河川水質と生物相の変化を観察し,上流のひこばえの森において,小野寺寛氏の指導でコナラ等の植林を行った。22日は畠山信氏(NPO法人森は海の恋人副理事長)の指導のもと,震災による地盤沈下によってできた住居跡の干潟における生物相を観察した。午後には湾周辺の森林の植生調査を行った。23日はボランティアで滞在されていた稲見充典氏に指導していただき,周辺の森林で伐採された木材の製材の実習を行い,午後に気仙沼市森林組合を訪問して吉田参事による講義と製材所の見学をさせていただいた。さらに震災関連の展示がされているリアス・アーク美術館を見学した。24日は午前に水山養殖場にて震災の瓦礫に含まれていた木材を薪として整理する実習を行い,昼食時には畠山氏の奥様によるホタテカレーをご馳走になった。その後,再び畠山氏の操舵するボートに乗って牡蠣筏を見学するとともに,震災後にできた牡蠣をご馳走になり,さらに森里海連環学に関する船上講義をしていただいた。夕刻には気仙沼市内の復興屋台と市場を見学した。25日は陸前高田市の奇跡の一本松と市内を見学し,昼過ぎに仙台駅に到着し,解散した。
 震災後,2年続けて復興の大変な時期に,当セミナーを開催させていただき,復興にはまだまだ時間が掛かること,しかしそれでも自然は大きく復活し,人々の暮らしも少しずつ戻り始めていること,さらに集落の高台移転や防潮堤の建設など複雑な社会問題を抱えていることなど,引率者としても貴重な体験をさせていただいた。学生のレポートも,ほとんどの学生が指定分量を大幅に越える枚数を提出しており,本セミナーの教育効果の高さを窺うことができた。
 最後になったが,忙しい中,プログラムにお付き合いいただいた畠山重篤氏,畠山信氏,小野寺寛氏,稲見充典氏,吉田高美氏をはじめ,丁寧に対応していただいた現地の皆様に,心から感謝するとともに,一日も早い復興を祈りたい。