ポケゼミ報告2011「森のつくりだすもの」

森林生態保全学分野 准教授 徳地 直子

 森は有形・無形のさまざまなものを私たちにもたらしてくれるが,森の実際の姿や森の作り出す機能の創出のためにどのようなしくみがあるのか,よく知っているとはいえない。このポケゼミ“森のつくりだすもの”は,森に入って,森にふれ,さまざまな森の性質をとらえることを目的としている。
 本実習は,例年和歌山研究林において夏季休業期間に行われる。しかし和歌山研究林は9月の台風12号により壊滅的な被害を受けたため実施が不可能であった。そのため、今回は森による様々な恩恵を考えるため、森と人の関係の濃厚な赤目の里での開催となった。赤目の里では里山からの木質バイオマスを利用した施設の運営や文化遺産などを活用した地域活性化がすすめられている。今年度は特にこれらを通じて、森のつくりだすものとそれを生かした人の暮らしを学ぶことを目的とし、以下のようなスケジュールとなった。

第一日目
 三重県名張市錦生地域に集合。錦生地域の文化財をめぐり、地域の歴史を学んだ。鹿高神社は古墳群を内在し荘園時代には東大寺に材木を供給したといわれており、宇陀川へ続く参道からその当時川を用いて用材を運搬したといわれている様子を考察した。次いで、水田開発に伴う水利の確保を目的として作られた黒岩矢川隧道遺跡や地域の有力寺であった黒田無動寺を見学した。その後秋葉山に登り、樹木の観察をするとともに、山頂では削平地にあったとされる福寿峯城跡を訪れ、山頂から錦生地域全体を見下ろしながら、人と森の配置を検討した。夕方宿舎に戻り、里山での物質循環についての講義を行った。夕食後は地域の“大来の皇女をしのぶ会”の方による地域の伝承についての歌劇を観賞した。
第二日目
 かつての里山の利用とくらしを学んだ。早朝に里山を見学し、どのような利用がなされていたかについて話し合った。その後、“赤目の里山を育てる会”の取り組みや木質バイオマスを利用した活動についての説明を伺った。午後からは戦国時代にこの地域で活躍したとされる忍者の頭とされる百地三太夫屋敷を見学した。さらに、黒田氏獅子神楽保存会の皆さんに獅子舞を体験させていただき祭りを通じた地域活性化について検討した。

というスケジュールである。日程は例年より短くなったものの、夜に地域の方との交流などもあり、短期間に集中した学習ができたのではないかと思っている。アンケートからも短い日程ではあったが、これまで考えたことがなかった里山や森林についてその生活という側面からも検討できた様子が伝わってきた。