京大広報誌『 楽 友 』(外国向け,英文)掲載記事
AUTUMN 2003 Issue 4 ( P.7-8 )
楽友(Raku-Yu)第4号(英文)は こちらのページ(大学情報課) をご覧下さい。(PDF)
−『楽友』第4号/Features 3・フィールド科学教育研究センター/日本語原稿 −
● タイトル
フィールド科学教育研究センターの設立
―― 森・里・海の連環機構解明が拓く、新しい科学と価値観の可能性 ――
● リード
豊かな自然環境は、「森と海のつながり」のたまものである。人はそこに、いかに関わっていくべきなのか ― 21世紀の最重要課題である地球環境問題の解決に向けて、今、新しいアプローチが始まろうとしている。
2003年4月に発足した、京都大学フィールド科学教育研究センターは、全国に点在する京都大学の9つの遠隔研究施設を統合し、京大の伝統「フィールドサイエンス」のよりダイナミックな展開を目指す。豊かな研究のフィールドは、豊かな教育のフィールドでもある。新センターは、フィールドをベースにした教育プログラムの開発にも意欲的だ。
豊かな地球環境を育むのは、「人と自然のつながり」である ― 新しい科学と価値観の創造に向けたセンターの将来展望を、センター長の田中克教授にうかがった。
● 本文
[見出し]フィールドをベースにした地球環境学の創造
―センター設立の経緯をお聞かせ下さい。
90年代、地球的な規模で解決の急がれる問題が、次々と浮上してきました。中でも環境問題は様々な分野に関わる問題としてクローズアップされ、京都大学でも1999年に「京都大学地球環境科学研究構想」の具体化を始め、対応する教育研究体制をどうするか、多角的な検討を続けてきたんです。その柱は三つあって、一つは、地球レベルの環境問題にしっかり対応出来る人材を育成すること。それが昨年4月に設置された大学院「地球環境学堂・学舎」ですね。二つ目は、10年スパンで、その時々に最も必要性の高い研究課題をプロジェクトとして立ち上げ、様々な分野の専門家が集まり集中的に取り組むこと。これが2001年に改組された「生態学研究センター」。三つ目がフィールドをベースにした現場教育と現場研究を推進するための全学組織を立ち上げること。これが「フィールド科学教育研究センター」。ですから、「地球環境問題」に対応する体系的な教育研究体制の三本柱の一つとして、このセンターは設立されたということになりますね。
―センターの理念や目的についてお話しいただけますか。
京大は別名「探検大学」といわれるくらいフィールドサイエンスの豊かな蓄積がありますが、これまでは研究者の個人レベルの活動が中心でした。それを組織としてしっかり継承し、より持続的に広げていきたい。そのための基盤作りが設立目的の一つです。
それから、今までは同じ研究科の中でも森林を研究する専攻と、海洋を研究する専攻が、基礎研究を担う研究科と応用研究を担う研究科が完全に分かれてしまってたんです。でも海も森も本来つながっているものなんですよ。人間の都合で分けてるだけで。海で今いろんな問題が起こっているのも、森がだめになって、川がつぶされて、というつながりの中から発生しています。だから海だけ回復しようと思っても出来ない。もっとトータルに森から見直す必要がある。そうしたつながりの仕組みを科学的に解明しようというのが、このセンターを立ち上げた一番大きな理由ですね。
―そうなると、共同研究や連携が重要になってくると思いますが。
学内に関していうと、フィールドに依存して森の研究をやってる先生、海の研究をやってる先生、その間の里域研究をやってる先生が集まっています。今までそれぞれにやってきたことを、違う視点から俯瞰して、それらのつながりの重要なところを共同研究課題としていきたいですね。それに自然科学的に仕組みが解明できても、果たしてそれで地球環境問題が解決できるかというと「イエス」とは言いがたい。だから、人文科学や社会科学など、もっと人間と関わる分野と連携する必要が出てくると思います。
学外に関していうと、京大は温帯にありますから、亜寒帯にある北海道大の「北方生物圏フィールド科学センター」と、亜熱帯にある琉球大の「熱帯生物圏研究センター」と連携して、日本を代表するような、「森と海のつながり」の新しい科学をつくるということも考えてます。日本の国土の70%近くが森ですから。周囲を海で囲まれてますし。そうした日本の地理的特徴を生かした研究がしたいですね。世界的にも「森と海のつながり」の研究というのは、まだ出来上がっていないので、日本独自の発信になると思います。それは、地球環境問題を解決していく上で、非常に大事な切り口を提供することになるのではないでしょうか。この際、重要な視点は生物多様性の保全であり、西太平洋域の生物多様性に関する国際プロジェクト(DIWPA)に取り組んでいます。
―日本の「顔」になる研究をめざすということですね。
かっこよく言えば、そうですね(笑)。日本は狭いですが、モデルになる「森と海のつながり」が、至る所にありますから。「森がだめになると、海がだめになる」というのは、研究者が気付く前に、漁業関係者が気付いていて、東北、北海道では彼らが植林を進めていたんですよ、40年も前から。こうした「森を復活させて、海を復活させる」という事例はあったんですが、科学的には何もまだ分かっていない。その仕組みの解明は、我々研究者も含めて人間に「自然と共存することの大切さ」を改めて教えてくれるような気がするんです。何か人々の生き方や価値観を変えるような、そういうところまで踏み込めるような、魅力的な科学が展開できればと思っています。
[見出し]フィールドをベースにした教育の開発
―センターの大学院教育についてお聞かせください。
様々な研究施設が一緒になっていますから、大学院生は必要に応じて色々なフィールドを利用できます。研究に広がりができますね。だから、今まで学部ではやりにくかった「境界領域」に興味がある人に来て欲しいし、そういう人をサポートしていきたいですね。海外からの留学生も積極的に受け入れます。彼らを通して世界各地のフィールドと連携を築いていけたら理想的ですね。この点では、東南アジアにモデル研究フィールドを設定し、生きた教育のフィールドとしても活用したいですね。
―教養教育の方にも積極的にフィールド提供していくつもりだとか?
それはもう、「教育研究センター」ですから。今の時代、いろんな情報がパソコンを通して簡単に得られますよね。そのせいで本物とバーチャルな世界の区別が、だんだんつかなくなってきている。それが、いろんな社会的な問題にも、つながっている気がします。だからこそ「実物にふれる」、「現場を肌で感じる」ということが教育では大事だと思うんです。そこで大学に入った直後の、もっとも感性豊かな時期の学生に、フィールドを体験させたいわけです。北海道、芦生、白浜、紀伊大島、舞鶴などで行う森里海連環実習、それと対になるフィールドベースの生物学の講義などを提供して、教養教育にも貢献していこうと思っています。
[見出し]フィールドからの情報発信―社会との連携
―「フィールド・ミュージアム」構想についてお聞かせください。
芦生の研究林なんかは、独特な生態系を持っていて博物館そのものなんですよ。そういう場所が海にもあるし、山にもある。そうしたフィールドの豊かな情報を、学術情報メディアセンターと連携しながら、遠隔生態観測システムを通して広く紹介していきたい。大学に居ながら、リアルタイムのフィールドの情報が見られる、そういうシステムの整備を進めています。来年春に、総合博物館でこのセンターの企画展示を行いますが、その際には、舞鶴の水産実験所や白浜の瀬戸臨海実験所をこうしたシステムでつないで公開する予定です。これは大学関係者だけではなく、むしろ小中学生などに見てもらいたい。社会との連携という意味でもこの「フィールド・ミュージアム」構想には力を入れて行きたいですね。
− 取 材 の 様 子 −
楽友(Raku-Yu)第4号(英文)は こちらのページ(大学情報課) をご覧下さい。(PDF)