少人数セミナー「海岸生物の生活史」 2005年5月1日―5月5日

講師:フィールド科学教育研究センター 海洋生物系統分類学分野 助教授 久保田 信


 天候に恵まれたGW中、8名の参加で、自然環境に恵まれ風光明媚な南紀白浜(和歌山県)に所在し、無脊椎動物や魚類の飼育展示で日本でも伝統ある水族館(開館75周年)を有する瀬戸臨海実験所の周囲の海岸において、下記のように、有意義で楽しい実地授業を実施した。

1. ガイダンス
初日午後に実施。雨天のため予定した構内施設案内は一部を延期。知られざる無脊椎動物の海洋での多様性を解説するとともに、固定標本をはじめ、ビデオや図鑑類でも多彩な生物を学習。

2.講義と実習の実施
(1)終生・一時プランクトンの採集と観察:瀬戸臨海実験所研究調査船“ヤンチナ”に乗り込み、田辺湾各所でネット曳きでプランクトンを採集し、その後、ラボで顕微鏡で観察とスケッチなど。(2)漂着物調査:実験所が所有する畠島および実験所の北浜・南浜で採集後、観察とスケッチなど。(3)磯観察:番所崎一周で磯に生息する生物の採集と観察とスケッチなど。(4)磯で観察できない動物群の観察:水族館で飼育展示中の、様々な分類群の観察とスケッチなど。夜と昼の行動や色彩などの相違にも留意。(5)瀬戸臨海実験所近郊の漁港での観察。(6)反省会の開催と海洋生物曲を歌う会。オリジナル曲♪「ベニクラゲ音頭」の披露。

3.レポート作成
最終日午前中に仕上げて提出。最後に、実習室と宿泊室の後片付けと掃除。

4.多様な実習材料を現場・実地実習する有効性はもとより、快適な宿泊設備に加え、少々贅沢にした食事の代金は、両者あわせて1万円以下で、経費負担は重くない。日本最古で質のよい温泉で、毎日フィ−ルドへ出かける疲労も吹き飛ばす。

以上のような本実習の概略は、連載中の「宝の海」(紀伊民報社)で報告するのでご覧ください。末筆ながら、下記に、参加者(理学部2名、農学部5名、医学部1名)に示した担当者のまとめなどを紹介します。

「ポケゼミ参加の8名のフレッシュマンたち、実習は如何でしたか?初日の悪天候にもめげず、GW中の参加を歓迎します。皆さんの熱心さで、その後はめきめきと天候が回復し、ヤンチナを使用した5月2日だけは、波が異常に高く、海水も濁っていたけれど、その後のフィ−ルドに出た全ての実習中は全日、天候に恵まれ、穏やかで暖かく、微小生物から肉眼で発見できる生物まで、多様な海産無脊椎動物や魚類などが、色々と観察できたので喜んでいます。また、並行して行った「水族館での観察」も、GWの混雑の中でしたが、代表として取りあげた刺胞動物門を説明の後、海辺では見られなかった数々の生き物達が飼育展示されている水族館の汽車窓方式の窓越しによく見、ラベルや解説などを参考におおいに学習できたでしょう。
 このような実習は、実は、もうお気づきのように、いくら時間があってもたりません。特に、配布の表で計算したように、生命の母なる海、”宝の海”には、未知の生物が無数に多様に存在しているのを納得できたと思います。動物はもっとも細かくわけても、ズバリ、40動物門しかありませんね。簡単ですね。それぞれの動物門の綱以下の内訳(種まで)にも今後は注目し、みなさんの前途洋洋たる人生で、これらの地球、いや海球の同朋者について、かれらの一生、つまり、配偶子から受精卵・幼生・幼体・成体・老齢体など、”生活史”を常に頭におき、それぞれの現在・ 過去・未来に思いをよせてやってください。また、食う食われるの食物網にも思いを巡らせてください。
 以上の2点を常に心得ておくこと、これこそ、自称、海球の王者、人間ホモサピエンスの大事な義務でしょう。今後も海洋生物、特に岸辺で出会える様々な生き物に個人的に、またサ−クルなど通して、皆さんの人生、めいっぱい親しでやろう、研究してみようなどという思いが芽生えたならば、この実習を受けてくださった甲斐があったと思います。また、特別な秘密をもつ、”ノ−ビル賞!”をもらえる2大テ−マ、光合成の人工作製方法の考案、ベニクラゲの神秘の若返りのメカニズムとその人類への応用、きたるべき?!南海大地震あるいは東海大地震のせめて年代だけでもの予測など、素晴らしいテ−マの一端を紹介しましたが、海にはもっともっと誰も知らない秘密があるはずです。それを発掘・研究・応用する醍醐味も夢みて下さい。
 飛び入りの特別ゲストの中北利男先生ご一家も一泊2日で参加され、ますます有意義になりました。海洋生物の歌も素晴らしいでしょう。最後に、他の実習などに参加できるここ素晴らしい南紀白浜に来てください。短い期間ではありましたが、何度も言いますが、寝食をともに実習した同級生の分野内・間のよき交流を続けていってください。


− 実 習 の 様 子 −

田辺湾産プランクトンを拡大して解説 北浜で漂着物などの観察と採集
瀬戸臨海実験所水族館で各種無脊椎動物を観察 実習が無事終了し、参加者全員で実習室前で記念撮影