少人数セミナー「C.W.ニコル“アファンの森”に学ぶ」(報告)
2006年 8月 8日−13日

担当教員:フィールド科学教育研究センター 教 授 田中  克
                     教 授 竹内 典之


 8月8日〜13日に表記のセミナーが実施された。勿論メインの講師は「勇魚」や「森と海からの手紙」をはじめ多数の著作を発表されるとともに崩れ行く日本の自然とそのことに無関心でいる日本の現状を憂い、四半世紀をかけて「アファンの森」(財団法人)を築かれている作家C.W.ニコルさんである。ニコルさんには昨年4月以来フィールド研社会連携教授を務めていただいている。
 初日はニコルさん自らアファンの森を案内しつつ、その歴史・森づくりの動機・手入れした森と放置した森の違い、さらには自らの北極圏やエチオピア山岳地帯などでの体験を混じえ、いろいろな興味深い話をしていただいた。手入れのよく行き届いた明るいコナラの林の中で車座になって、「森を歩いて感じた感想」を聞かれた学生は、ニコルさんの様々な体験に裏打ちされた迫力とスケールの大きさに圧倒されたのか、素直な感想や質問がなかなか出ず、ニコルさんを失望させてしまったようであった。
 2日目の午前中は、日本海側から南下し、長野県境に位置する妙高市に発生している森林流行病のナラ枯れの現場を見学した。案内を務めていただいた飯田さん(元アファンの森職員)より、集団で枯死したミズナラやその拡大防止の実際を教えていただいた。同日午後には、ニコルさんの森造りの片腕としてこの20数年間苦楽を共にされた松木信義さんによる森造りの難しさや楽しさを聞く機会を得た。森のあらゆることを知り尽くし、話好きの松木さんの口からは森仕事の実際、森の動物や魚達、クマとミツバチの巣箱をめぐる知恵比べなど次々と興味深い話が提供された。このセミナーには医学部1名・理学部2名・農学部3名の学生が参加したが、それぞれの興味の枠を越えて皆松木さんの話に聞き入った。それは、個別の具体的な話題の根底にある「自分で確かめなければ信じない」という“松木哲学”が流れていることに気づいたからに違いない。
 3日目はいよいよ森仕事の体験である。全員森での作業は初体験であるため、各自ノコギリを持って半分伐採の済んだ森の比較的細い木を切り、新たな広葉樹の植林を行う場所造りであった。最後には各自チェンソーでの伐木も体験し、貴重な一日となった。この日の昼食はニコルさんが3日前から準備を始めて作って下さったウェールズ風鹿肉のシチューであった。作業で少々疲れ、夕立で濡れた体にはたまらない御馳走であった。
 ニコルさんは丁度江戸末期を舞台にした小説を執筆中で、その最終段階にあるにもかかわらず3日間ともにポケットセミナーにつき合っていただき、一同感激した。その場での質問は少なかったものの各自レポートにはこの実習が大変貴重なもので、いろいろなことを考えるきっかけになったことが記され、引率した2名の教員も安堵したところである。

− 実 習 の 様 子 −