少人数セミナー「お魚好きのための魚類研究入門」(報告)
2006年4月24日−8月11日

講師:フィールド科学教育研究センター河口域生態学分野 助教授 田川 正朋
助 手 中山 耕至


 京都大学農学部において8回の講義と実習を行い、フィールド科学教育研究センター舞鶴水産実験所において2泊3日のフィールド実習を実施した。実際に手を動かしながら、かつ議論しながら進めるため募集人数を6名に制限した。抽選により文系・理系半々の男子学生6名(農2、理1、法1、経1、教1)が受講生となった。あらかじめシラバスに明記してあったので、全員がお魚好き(釣り好き)である。京都での講義は全員が皆勤であったが、舞鶴での実習は都合のつかなかった学生が1名いたため、5名の参加であった。

京都での講義と実習(月曜4限)
第1・2回目:魚について、考えられる限り多様な「問い」をブレーンストーミング様式で発してもらった。討論を行いながらこれらを魚類研究の学問分野に割り振りを行い、学問体系の雰囲気の把握を行った。
第3・4回目:小型魚類(ゼブラフィッシュ)を用いて、実際に受精卵が卵割する瞬間を各自に実体顕微鏡下で見てもらった。また、各自が受精卵を自宅に持ち帰り、河川や池の水で発生する経過を観察した。翌週に全員のデータを集計し、データの分析法や結果の考え方について討論をおこなった。
第5・6・7回目:各自が釣ってきた魚、あるいはこちらで準備した魚を材料とした。検索表を用いた種名の決定法、外部形態の詳しい観察法のトレーニングを行った。さらに、解剖を行い、各種臓器や胃内容物の観察も試みた。これらのデータとネットや文献による情報に基づき、その魚の「生き様」を推測する作業を各自に行ってもらった。データを教官がパワーポイントのファイルにまとめ、発表会形式で討論を行った。
第8回目:舞鶴での実習に備えてのガイダンス、魚の飼育に関する生理学的な基礎知識、 およびピーターセン法による資源量調査の基礎知識などを講義した。

舞鶴での実習(8月9日から8月11日)
9日:台風接近のため予定を変更し、11時半に西舞鶴に到着後、すぐに宮津エネルギー研究所水族館(丹後魚っ知館)を訪問した。普段は見ることができない水槽裏側の設備や繁殖水槽等を、飼育担当の吉田氏から詳しい説明を受けながら見学した。4時頃に舞鶴水産実験所に到着し、標本館と飼育設備の見学を行った。夕食後には灯火採集により魚類仔稚魚の採集を試みた。
10日:舞鶴の院生(和田・牧野)に手伝ってもらい、由良川河口近辺(神崎)にてケタ網採集を行った。採れた魚類のうち、マハゼおよびマゴチのヒレを切除して放流し、1時間後に再捕を試みた。採れた両魚種の全個体数およびヒレ切除個体数を計数した。安全のため全員にウエットスーツを着用してもらったが、一方で暑さのため体力を消耗した。3時前に実験所にもどり、採集用具の洗浄等の後始末やデータの集計等を行った。
11日:上野先生と佐藤船長のお世話になり、緑陽丸にて由良浜沖でケタ網採集を行った。5m、10m、30mの3深度で採集される生物相の差異を観察した。また、普段実物を目にする機会のない魚群探知機や海洋観測機器の説明を受けた。昼食後に昨日行った資源量調査の計算と討論、およびこのゼミ全体のまとめなどの最終ミーティングを行い2時過ぎに実験所をあとにした。

反省点など
 もともと「お魚好き」の学生を集めたことによって、魚という研究対象への集中力を持続させることが出来たと思う。また、全員が釣り好きのため、ゼミ生相互のコミュニケーションにも効果があったように見えた。高校までの「勉強」と大学での「研究」の違いを明確にするため、自分の頭を使ってもらうことと、普段は見ることのできないものを実際に見てもらうことに重点をおいたが、内容的にはやや多すぎたかも知れない。受講人数を6名としたため抽選で涙をのんだ学生もいたと聞くが、ゼミとしての効果を維持できる人数を考慮するとやむを得ないように感じる。何よりも事故もなく良い雰囲気のなかで1学期間のゼミを終了できたことに満足している。

− 実 習 の 様 子 −