ポケゼミ報告2011「京をめぐる森と人のくらし」

森林生態保全学分野 嵜元 道徳 助教
森林資源管理学分野 坂野上 なお 助教


 少人数セミナー「京をめぐる森と人のくらし」は、昨年と同様に、京都市周辺に広がる二次的な森林植生と人の関わりとの理解を目的に、初回と最終回の室内講義の外、京都市周辺の古社寺とその周辺の森林5ヶ所を訪れて実施した。参加者は8名(経済学部2名(途中から1名辞退)、医学部1名、薬学部1名、工学部3名、農学部1名)であった。

 フィールドワーク第一回目となった東山(八坂神社、知恩院、将軍塚、清水山、清水寺を辿るコース)では、それぞれの社寺の歴史、古建築材や檜皮生産の状況、さらには現在見られる森林と主要構成種の生態特性などについて解説するとともに伐根の年輪数などの調査を行った。第二回目の比叡山では、延暦寺の根本中堂と文殊楼の古建築や境内林を構成する杉の巨木を見学後、最澄が辿ったとされる本坂を途中まで下り、幅広い標高域に分布しているモミ林、分布下限域に在るブナの巨木、そして延暦寺所有の広大な人工林などを見学し、森林植生と人の利用について学んだ。大文字山のコースでは、五山の送り火で最初に点火される「大」の字の所までを往復し、アカマツと落葉広葉樹から成る森と周辺の歴史についての解説などを行った。下山後は、足利義政が終の棲家とした銀閣寺を、多くの観光客で溢れて落ち着かない中、拝観した。第四回目の上賀茂のコースでは、古代豪族の一つであるカモ氏の氏神である賀茂別雷神社とその周辺の森を見学し、森の生態と周辺の歴史について学んだ。そして、フィールドワーク最後となった京北・山国コースでは、現在から過去に遡るようにして、北山林業地での台杉仕立てによる垂木生産地を手始めに、平安時代以降、禁裏御料地とされていた京北地域を訪れ、古社寺や当該地域の往時の森の姿をうかがうことのできる片波川源流域自然環境保全域で台杉の巨木群などを見学した。そして、往時の森の利用や流通などについて学んだ。
 最終回には、まとめの講義と意見交換を行ったが、比較的気ままな学生諸君がいたこともあってか、それぞれの視点で森の様子や歴史的風景などについて意見を述べてくれた。特に、本セミナーでは何らかの価値観などを押しつけるような方法を採らず、自らの目で直接見て感じて考えてもらうという方針で行っていることから少し戸惑った熱心な学生も中にはあったようであるが、意見交換の中で、何らかの価値観にとらわれ過ぎずに自らの目で直接見て考えるという当たり前のことの重要性に改めて気づいてくれるという場面もあった。その他、課したレポートには、東山にある常緑広葉樹林の木々が織りなす芸術的な美しさに触れたものもあり、独自の視点で森をながめていることがうかがえた。