2024年公開森林実習Ⅰは、2024年9月4日(火)~6日(木)の3日間に開催されました。
実習の目的は、京都における里山と奥山の両方において、森林の歴史や現在の状況(ナラ枯れ・マツ枯れ・シカによる食害・人工林の管理)を体験学習し、森林をめぐる環境問題に対し、科学的な知識や研究手法を習得することです。本拠点事業では特に、地域の人々との交流や活動の体験を通じて、人間社会と森林の関係について考察し、持続的な人と森との関係のあり方を多面的に考えられるようになることを実習の特色として掲げています。
初日は京都市の里山について、上賀茂試験地で講義と実習を行いました。上賀茂試験地では、都市近郊林の自然植生とナラ枯れ・マツ枯れ被害、マツ類を中心とする外国産樹種とその特徴の解説に、受講生は興味深く耳を傾けていました。次に、イオン環境財団と協働で行っている「里山おーぷんらぼ」という、市民参加型の里山活動について、説明と活動場所の見学がありました。さらに、上賀茂試験地技術職員の指導のもと、一人ずつチェンソーを用いた木材の加工体験を行いました。
上賀茂試験地での実習の後、芦生研究林へ移動しました。夕食後に簡単な自己紹介のあと、二つの講義がありました。最初の松岡先生による「芦生研究林の概要説明」では、芦生の森林や生物多様性とその重要性、そしてシカの過採食による森の変化について解説が行われました。続いて、遠隔地会議システムを用いて、北海道研究林の小林先生による「北海道の森林と人との関わり」についての講義が行われました。京都とは自然環境が大きく異なる北海道の森林とその状況を深く掘り下げた内容でした。
2日目は、松岡先生、石原先生、張先生よる講義が行われた後に、芦生研究林内の見学を行いました。講義では、菌類という目に見えない生き物の森でのはたらきや、人と森の関わりについての社会学的な分析について紹介されました。林内では原生的森林の残るエリアを歩きながら、天然林・人工林の観察をしたほか、大規模シカ排除柵の見学を行いました。午後はきのこ班とトチノキ班に分かれ、きのこ相の調査やトチノキの種子の結実量調査を体験しました。そして、芦生のシンボルである大かつらの見学を行いました。受講生からは、「普段立ち寄ることのできない森林で、実際に見聞きした体験は貴重でした。」などの感想がありました。
夕方に、受講生から、それぞれの身近な森についてパワーポイントを使って説明してもらいました。受講生は、異なる地域や視点を持っていることから、一人ひとり全く異なる「森」の姿や人との関わりの紹介が行われ、とても良い交流の契機となりました。夕飯には芦生研究林のある美山町で獲れたシカ肉の料理を味わいました。その後、そのシカを捕獲した美山町で暮らす猟師さんから、猟師としての暮らし、「狩猟」と「駆除」の間で生きる葛藤などについて話を伺いました。普段は交流する機会のない猟師のお話はとても興味深い内容で、講義後は多くの質問が寄せられました。


3日目は午前に茅葺の里での里山景観やその歴史を学んだ後、京都市右京区京北の原木市場を訪問し、原木の競りの現場を見学しました。午後には大学構内にある北白川試験地において北山台杉やナラ枯れの研究および j.Pod(リブフレームによる木造建築)の見学を行いました。最後に、実習の振り返りが行われ、解散となりました。


今年は10名の学生が集まりました。参加者の所属大学は北海道大学(1名)、千葉大学(1名)、筑波大学(1名)、信州大学(1名)、名古屋工業大学(1名)、大阪大学(1名)、近畿大学(1名)、福井県立大学(1名)、大阪産業大学(1名)、(台湾)中央大学(1名)でした。農学部で森林を学ぶ学生だけではなく、水産学部で水産を学ぶ学生や、生物資源学部や工学研究科で都市工学を学ぶ学生など多様な背景を持つ学生が参加してくれました。また、今年は韓国からの交換留学生と台湾からの日本人学生の参加もあり、グローバルな視点の意見交換もできました。
参加した学生からは「様々な角度から森へのアプローチを学ぶことができ、実際に関わっている人の話を聞くことができたのがよかった。」「実際に生活している人々とコミュニケーションをとったり、教員や学生だけでなく技術職員とも様々な話をすることができた点が、普段の実習とは全く違った新しいもので良かった。」「少人数であったため、より深い学びや交流が可能であり、何かしらで一人一人がフォーカスされる場があったためアウトプットをする機会があって良かった。」という感想があり、実習を通じて人と森の多様な関わりや視点を学んでもらえたと思います。