パナソニックとの共同研究その3

自分達の手で作る、持続可能な未来

-パナソニックとの共同研究 ILASセミナー振り返りVol.2-

京都大学フィールド科学教育研究センターでは、京都芸術大学、パナソニック株式会社 マニュファクチャリングイノベーション本部(以下、パナソニック)と共に、持続可能社会に向けた「自然・こころ・社会」に関する共同研究を行っています。2020年5月にスタートし、前期の活動を終えた今、改めて振り返りを行いました。講師を務めていただいた建築家の家成俊勝氏もお招きし、内容をおさらいするとともに、これからのパナソニックの活動についても意見を交換しました。

ABOUT

2020年度の共同研究では、ILASセミナーを実施。これは、学問の楽しさや意義を実感してもらうことで、自ら問い学ぶ“学問”に慣れ勉学生活の導入を目標とするセミナーです。京都大学の1回生を中心に、多数の聴講生やパナソニックの社員さんも参加し、それぞれの立場から学びを深めてきました。

REVIEW

地域住民がつくりあげたUmaki camp

5月21日の講義では、小豆島の「Umaki camp」の事例についてご紹介しました。Umaki campは小豆島の馬木にある、地域住民のための施設。建物は、まっすぐに木を切る、ボルトで留めるといった、専門家でなくてもつくれる仕組みになっており、地域の方々も建設に参加しました。

施設の用途もシンプルで、自由に使えるキッチンと小さなスタジオ、そしてヤギ小屋から成ります。キッチンでは、各家庭で採れすぎた野菜などを持ち込み、調理することが可能。また、スタジオは地域のラジオ局となり、情報に対して受け身になりがちな離島で、自分達が情報を発信する場所となっています。Umaki campは、その空間に集まった人と人がつながり、サービスを受けることに慣れすぎてしまった現代人が、自分達で何かを生み出すきっかけとなる場所です。

川村宗生さん(工学部 建築学科):広場という空間をつくることで人が集まる場所ができ、人と人の交流ができる、建築は人と人をつなぐものだという考え方がとても素晴らしいなと思いました。「自分が生きている、これから50年100年が無事ならいいや」と考えている人は持続可能性について考えることはできないと思います。そのような人が考えるきっかけのひとつは自分以外に興味を向けることです。そのためにもこのような人と人とのつながりが生まれる空間はかなり重要だと思います。

長く使うことだけが美徳ではない、広い視点での持続可能性

建築家 京都芸術大学教授 家成俊勝氏

家成氏:Umaki campは、2013年の瀬戸内国際芸術祭への出品作品で「なぜつくるのか、どのように、だれとつくるのか、そしてどうやって使うか」までを考えたプロジェクトです。

建物は、専門家、非専門家を問わず、建築に参加できる仕組みにしました。というのも、東日本大震災の津波で家を流された人達が、二重ローンに苦しむ話を耳にしており、災害に遭っても低予算の家を自分達で建てられないかと考えたからです。

また、最近は200年住宅と呼ばれる家があるように、建物を長く維持する考えが一般的です。しかし、10年、20年で作り直し、早いスパンで循環していく建築のあり方もあるのではと思っていました。素材は、人間が手を加えれば加える程自然に戻りにくくなります。取って来た素材をそのまま使えば、循環しやすいのです。

京都大学フィールド科学教育研究センター 特定助教 赤石先生

赤石先生:学生からも「長持ちだけが良いのではなく、自然に循環することが大事という話が強く心に残った」と感想がありました。私達は、木はできるだけ切らない方がいいという先入観がありますが、早く循環して再生させるのは面白いですね。私が専門としている里山と、家づくりは似ていると感じました。

堺美也さん(農学部 地域環境工学科):長持ちするだけが良いことではない、という言葉がとても印象に残りました。わたしは、大量に作って大量に捨てるという今の社会構造が持続可能な社会とは対 極にあると感じ、長持ちする製品が良いものであるかのように思っていましたが、たしかに自然の循環のサイクルにうまく入っていける材料を利用するならば、短いスパンで製作を繰り返すことも持続可能性のひとつの在り方なのだと納得しました。

パナソニック株式会社 マニュファクチャリング本部 
マニュファクチャリングソリューションセンター所長 中田公明氏

中田氏:住民が自分達の手でつくり、できあがっていく途中に、モノに対する愛着を感じやすいと思いました。そう考えると、パナソニックの開発者は商品にどれくらい愛着を持っているでしょうか。工業製品を大量に売ろうとすると、分業となります。その結果、一生懸命やっていても愛着は湧きづらい気がします。買う方も同じで、使うことだけが目的であって、つくることは手段化しています。「自分でつくることが愛着につながる」。これは今後の方向性なのではと思いました。

山本玲さん(農学部 資源生物科学科):もし仮に、エアコンをスイッチから組み立てて、ある程度自分でカスタマイズできるようなワークショップを開けば、そこで作ったエアコンは愛着があるから相当大事にするし、壊れても簡単には買い替えられない(頑張って修理する)のかなぁなんて思ったりしました。

日本のどこに住んでもハッピーであるためには?

家成氏:このプロジェクトが成功した要因の一つとして、地域の方々の協力がありました。小豆島の人口は年々減少しており、2050年には人口が半分になると言われています。早くから危機感を抱いていた馬木の人々が、地域活性化のために協力をしてくれました。

中田氏:こういった地域活性のプロジェクトは素晴らしいし、ワクワクしますよね。ただ、その地域は救えても、他の地域は過疎化が進むばかり。家成先生が千人いたらいいのですがそうもいかないので、何か成功する仕掛けがあれば自治体ごとにできるのにと思ってしまいます。

家成氏:以前、島根県の集落で、民家を改修して一棟貸しの宿に変えるプロジェクトに携わりました。その地域ならではの美味しい食材や魅力を体験できる仕掛けをつくったところ、多くの観光客がこの集落を訪れるようになりました。宿の運営を地元の人に行ってもらうことで雇用も生んでいます。住んでいる人は気づきにくいものですが、どの地域にも他にはない良さがあります。それを建築家や外部の人間が発見し、デザインすることで地域の再生につながるのではないでしょうか。

中田氏:なるほど。デザインシンキングができる人や賛同してくれる人達のネットワークや、地域活性をするモデルをつくり、広がっていくと良いですよね。そこにはビジネスとしての持続可能性が大前提で、地域と共に発展できればハッピーな形を形成できますね。

京都大学フィールド科学教育研究センター ・センター長 教授 徳地先生

徳地先生:過疎化については、地域がきちんとお金を稼いで成り立っていくことが重要です。農作物で言えば、今は作っている場所と消費している場所が離れすぎていることもあり、農作物の値段が安すぎる問題があります。心を込め、時間をかけて作ってくださっていることはきちんと評価されるべきですね。

赤石先生:結局は、農村などが都会に選ばれなければ生き残れない面があります。田んぼに住む生き物を大切にしながら農業をしている素晴らしい農家さんがいても、東京のバイヤーに選んでもらい、消費してもらわないと生きていけない。そのフェーズを越えて、普通の人が普通に田舎で暮らすことができれば、全国どこでも暮らせる未来が来るのでは?と妄想しています。

家成氏:私も同じ妄想をしています。それが一番いいなと思っています。

MESSAGE

家成氏:パナソニックさんは、戦後のモノのない時代から、三種の神器などを世の中に届けてくださいました。今、こういった商品は行き渡り、進化が難しい時代。それでも新しいモノをつくり続けていくご苦労があると思います。商品には材料があり、材料をつくる人、運ぶ人がいて、その連なりの最後に我々がいます。今後パナソニックさんには、商品になっていないモノや、その連なりを壊した何かをしていただけるのではないかなと思っています。答えは出ていないのですが。

中田氏:ありがとうございます。結論は閉じていない方がいいと思っています。この記事を読んでくださった方が、家成先生の様に思う方もいれば、全く違う方向の考えの方もいるでしょう。収束させずに、それぞれが違うアイデアを持ってくださればと思います。

参考リンク:パナソニックの研究開発について

https://www.panasonic.com/jp/corporate/sustainability/downloads.html

パナソニックとの共同研究その2

“窒素”と“きのこ”がつなぐ森林社会。これからの自然と人の共生を考える。

-パナソニックとの共同研究 ILASセミナー振り返りVol.1-

持続可能社会に向けた「自然・こころ・社会」に関する共同研究。2020年5月に開始した、京都大学フィールド科学教育研究センターと京都芸術大学そしてパナソニック株式会社 マニュファクチャリングイノベーション本部(以下、パナソニック)による取り組みを紹介します。

以下は、パナソニックの社内報に掲載されたILASセミナーの振り返り記事です。

About

「持続可能な社会をつくるためには、どうすればよいのか。わたしたちには何ができるか?」を自分ゴトとして考えてみる。京都大学の学生とパナソニックの社員さんが合同セミナーを通じて、探求し続けています。

みなさん、森里海連環学(読み方:もりさとうみ れんかんがく)って聞いたことありますか?これは、森から海における生態系間のつながり、生態系と人のつながりを考える学問で、京都大学が新しい学問領域として提唱し、教育・研究・社会連携を進めています。

「これまでの100年は、人々のくらしを物質的に豊かにすることで社会へのお役立ちを果たしてきました。一方で、人や自然を中心に考えると、心や体の悩み、環境・エネルギー問題など、くらしを豊かにするために犠牲にしてきたことがあるのではないでしょうか。過去100年で犠牲にしてきたことを取り戻すために、これからの100年、わたしたちに何ができるのか?を考えていく必要があると思っています。」と話すパナソニックの皆さんと一緒に学んでいければと思います。

Review

今回紹介する講義テーマは、徳地先生の「窒素」と赤石先生の「きのこ」です。地球全体の循環を二酸化炭素でなく窒素で見ると森林生態系と物質循環が、また、赤松の根と松茸の菌糸が地下でつながり共生しているなど、植物ときのこ、動物ときのこの多様なつながりから森林生態系でのきのこの重要な役割が、それぞれ見えてきました。

■「窒素」講義内容と感想

徳地 直子 さん (京都大学フィールド科学教育研究センター ・センター長 教授)

持続可能な社会、環境保全のイメージ、今あるものを減らさない、保つ、というイメージがあった。人間が手を加えて多様性を高める、という行動に違和感があった。変化に対して、対応していく、という考え方もあることに気づいた。行動につながる、考えることができそう。(農学部 資源生物科学科 山口真由さん)

個人的に、経済の発展と環境の保護が相反するという意見に違和感を覚えた。両者を同時に満たすことは決して不可能ではないと思う。人間活動が環境に与える影響を「悪」だと決めつけるのではなく、win-winの関係を築くこと、そのための方法を考えることが重要だと思う。もし経済と環境の両立を諦めてしまえば、経済に余裕がある国でしか環境保護が行われないことになってしまう。自然で儲ける、自然の恵みを利用して暮らす、といった方法を模索できないかと思う。(農学部 資源生物科学科 佐山葉さん)

「何事も過剰に行ったり極端な方法を取ることは良くない」という考えにまとまっていった場面が何度かあったように感じます。一体過剰という基準はどこからなのだろうかと思いました。科学的に検証されて出来上がった基準というものがあるとお話しされていましたが、あくまで人が作り上げたものであり、そもそも持続可能な環境を作らねばならないきっかけとなったのは、人が自らの主観でこれほどなら大丈夫であろうと思い続けてきた結果故であるので、今この瞬間での対応がいかに基準に沿ったものであっても、後の自然に与えてしまうマクロな影響を考慮することは非常に難しく、それほど自然は繊細なものなのだなあと思いました。(医学部 人間健康科学科 金善太さん)

■「きのこ」講義内容と感想

赤石 大輔 さん(京都大学フィールド科学教育研究センター 特定助教)

食材としてのきのこがあまり好きではなく、今までなんとなく負のイメージを持っていました。きのこは、分解者として資源循環の一端を担っているだけでなく、樹木や植物、昆虫と繋がりあって、人間の目の届かない土中や空中にも広がっているきのこの不思議な魅力を感じることができ、食卓にのぼるきのこたちにも少し好感がもてた気がします。ランも、なんとなく非自然的な感じがしてあまり好ましく思っていませんでした。しかし、他の植物とは違ったランの生き方を知って、葉緑体を持たない宇宙人的な姿を美しいと思えるようになりました。(農学部 地域環境工学科 堺美也さん)

山と疎遠になった現在の私たちの状況で、新たに自然とどのような関係を築いていくべきなのかと、考えさせられます。まだまだ謎が多いきのこの世界に、興味は尽きません。キノコの生態系や人に対する影響は大きいにも関わらず研究している人が少ないのも不思議ですね。個人的に色々調べてみたいです。前回セルロースファイバーのお話を聞いたので、原木や菌床を使って栽培した椎茸など食用きのこがあるように、使用済みの繊維を活用したセルロースファイバー椎茸なんてものがあったらと妄想しました。(農学部 資源生物科 玉田結唯さん)

きのこの全体は到底つかみきれない複雑で色んな種類がある、それ自体が面白い。ハエが舐めて死ぬ、それが何の役に立つか分からない、これが面白い。目先の利益などにこだわる昨今、どうなるか分からない転がる感じ、遊ばないといけないなという感じが良いと思いました。(京都芸術大学空間演出デザイン学科・教授 (株)ドットアーキテクツ代表 家成俊勝氏)

Interview

天野 智貴さん

パナソニック株式会社 マニュファクチャリング本部 マニュファクチャリングソリューションC メカトロ・システム技術部 資源循環技術課 

ILASセミナーに参加させていただいて、物事を多様な見方で据えられるようになりました。特に窒素循環のお話しを聞いて、単純に海が綺麗になれば環境に良いのではなく、窒素の含有量が増えた方が魚介類にとっては良かったりすると、複雑に事象が絡み合っていることを知りました。そして、様々な講義の中から多様な視点で考えることの大切さを感じました。学生みなさんとの交流によって、物事の見方に対する引き出しが増えたと思います。物事に対して業務のように深く考えたり、素朴に戻したりと考え方の幅が広がりました。このセミナーで学んだサスティナビリティの考え方を自らの業務に活かしていきたいと思います。

関連リンク

 パナソニック企業情報 サスティナビリティ トップメッセージ「社会の公器として」

https://www.panasonic.com/jp/corporate/sustainability/message2020.html

パナソニックとの共同研究

2020年度より、フィールド研はパナソニックとの共同研究に取り組んでいます。パナソニックが目指すサーキュラーエコノミー、フィールド研ではそれを森里海連環学に基づき考えるため、ILASセミナーで学生たちとパナソニックの社員の方々との交流の場を作り、持続可能で循環型社会を構築するために、私たちに必要なことを議論しました。

以下は、パナソニックの社内報に載った記事で、一部を修正してこちらに転載します。

パナソニックさん、“50年つかっても捨てる必要のないテレビ”ありますか?

これらは、「持続可能な社会をつくるためには、どうすればよいのか。わたしたちには何ができるか?」の問いに対する、学生たちの答えです。約半年間におよぶ京都大学、京都芸術大学、そしてパナソニック株式会社(以下、パナソニック)による合同セミナーを通して、学生たちは、そしてパナソニックの社員も多くの気づきを得て、「持続可能な社会」に一歩近づくことができました。

About

持続可能社会に向けた「自然・こころ・社会」に関する共同研究。2020年5月に開始した、京都大学フィールド科学教育研究センターと京都芸術大学そしてパナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部(以下、MI本部)による取り組みです。2020年度は、京都大学の1回生向けのILASセミナーを開講。

ILASセミナーとは「学問の楽しさや意義を実感してもらうことにより、勉学生活への導入を目標として開講される」もので、高校までの”学習”とは異なる、大学ならではの自ら問い学ぶ”学問”に慣れるためのセミナーです。

「1×2×3×4=サスティナブル(1次産業、2次産業、3次産業、4(アート)の掛け算。産業横断、学部横断でサスティナブリティについて考えよう!)」をテーマとした本セミナーに履修登録した学生は8名。そのほか、多数の聴講生や、パナソニックの社員も参加。学生、教授、会社員、それぞれの視点から互いに刺激し合い、学び、考え、対話を重ねてきました。

読者のみなさんもセミナーに疑似参加していただき、持続可能社会について考えてみてください。

連載第1回目となる本記事では、セミナーの運営に深くかかわってくださった徳地先生、赤石先生、MI本部 マニュファクチャリングソリューションセンター所長中田氏に、セミナーの目的や受講生の変化、今後の展望についてお尋ねしました。

Interview

徳地 直子 さん

京都大学フィールド科学教育研究センター・センター長 教授

大学院で森林生態系の窒素循環に取り組み、現在に至る。フィールド科学教育研究センターのミッションである森里海連環学について物質循環からアプローチするが、森里海連環が抱える問題が単なる物質の連環ではないことから苦戦を続けている。最近は、次の世代と持続可能な生態系に基づいた安心した暮らしするためにできることを考えている。

赤石 大輔 さん

京都大学フィールド科学教育研究センター 特定助教

大学、NPO法人、自治体、国の中間支援組織の職員を経験。域学連携の事業立案、 NPOの設立・運営、自治体の里山保全計画の策定、地域環境課題解決に向けた協働取組の中間支援など、研究者の枠を超え様々な経験を積む。森里海連環再生プログラムでは社会連携推進を担当。持続可能型社会に向けた多様なステークホルダーによる協働の場の創出を得意とする。

中田 公明 さん

パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 マニュファクチャリングソリューションセンター所長

1986年、松下電工(当時)に入社。金型、成形加工、シミュレーション(CAE)、レオロジー、LED照明の製造、金属3Dプリンタ、カスタマイゼーション、BIMなどを経験。とくに射出成形(プラスチック部品の加工プロセスをシミュレーションによって計算・設計)の技術を長年にわたり研鑽。2019年から現職に就き、サーキュラーエコノミーを知り、使命として認識。

本プロジェクトの成り立ちを教えてください。

中田氏:もともと京都大学とパナソニックは、こころの未来研究センターをはじめとして、いろいろな産学連携や共同研究をしています。MI本部は技術研究部門ですから、関わりも多い。そのひとつが、森里海連環学と共同で、持続可能社会を考える今回の取り組みです。

徳地先生:森里海連環学は、森から海における生態系間のつながり、生態系と人のつながりを考える学問です。森に降った雨は、湧き水や川となって里まで流れ、人の暮らしを潤し、海に出て、また雨になります。この関係は一方通行ではなく、相互に影響・関係する「連環」です。この連環の解明こそが、地球環境問題の解決の鍵であり糸口と考え、研究しています。

中田氏:パナソニックも環境に配慮した技術研究は進んでいますが、根本的な社会構造の変革にまで踏み込んだビジネスモデルの検討には至っていないのが現実です。そこで今回、持続可能社会に向けた「自然・こころ・社会」に関する共同研究を行い、新しい社会心理に適合するビジネスモデルを考え、そこからのバックキャストで技術開発の方向性を再定義しよう、と考えたのです。

つまり、「あるべき未来像と、その社会心理」を見つけて、そこからの逆算で必要な技術を開発していこう、という発想です。

徳地先生:わたしたちは研究者ですから、森の水質や海の水質を見て、その連環を解き明かすことが命題です。けれどそこにパナソニックさんのような企業活動が入ってくることで、机上の空論ではない、現実的な解決方法が見えてきます。

もともと持続可能性を考えるセミナーを計画していたタイミングでコラボの話をいただき、実現へと進みました。セミナーにはわたしだけではなく、赤石先生や環境省から出向しているメンバー、企業の方、いろんな人に参加してほしかったので、とても良いタイミングでした。

出典:http://www.cohho.kyoto-u.ac.jp/about/cohho/

いろいろな人が参加したことのメリットはありましたか?

徳地先生:多方面からの提案や意見を聞けたことが大きかったですね。

赤石先生:枠が外れたことも大きなメリットだと思います。研究者は、どうしても自分の専門分野から外に出ることが苦手です。けれど、そこにパナソニックさんが入ることで、否応なしに企業活動との関連性を説明せざるを得ない。

個々の課題を提示するだけにとどまらず、実は課題同士がつながっていることも学生に伝えられました。自然科学を道具に、社会科学にアプローチした感じです。

セミナーはオンラインで開催されたのでしょうか?

赤石先生:当初は対面で開催する予定でしたが、やはり新型コロナの影響で、オンラインに切り替えました。slackを使って対話や議論を重ねていきました。学生にとっても、わたしたちにとっても特異な体験ですね。

徳地さん:結果として、1回生にとっては学問に触れる機会となり、社会との接点をつくり、学生同士のつながりも芽生える場となりました。対面に負けない刺激の多さだったと思います。

Slackを使った議論にも、学生たちはスムーズに適応。

学生の皆さんに変化はありましたか?

赤石先生:最初は「持続可能性」の言葉自体が、抽象的でした。自分の言葉になっていないような。それがセミナーを通じた対話を重ねて、自分の頭で考えるようになり、身近な問題や不都合に気付いて実感し、具体的な意味を持つ言葉に変わっていきましたね。

徳地さん:ある工学部の学生は「自分は工学の道に進むので、自然世界に関わることが少ないと思い、このセミナーを受講しました」と語っていました。このセミナーが終わったら、自然世界のことは忘れてしまうのかな、と思っていました。ところが、このセミナーのほかにも屋久島の調査に参加しようとするなど、自然世界に興味を持つようになり、視野を広げてくれたんです。

パナソニックの社員はどうですか?

中田氏:学生のみなさんの知識への意欲や、セミナーのなかで出てくる意見に刺激を受けていました。各回のテーマだけではなく、関連するテーマや社会全体へと視野の広がった社員が多かったです。

我々の技術研究もフォーカスポイントを絞りがちですが、そもそも何を解決するための技術なのか、この技術によって人々の暮らしはどう変わるのか、技術を受け取った人はどう反応するのか、といった広い視野が必要です。その気付き、訓練として今回のセミナーはとても有意義だったと確信しています。

徳地先生:パナソニックさんも、いろいろ考えている、試みていることがわかって、とても興味深かったです。そこに共感できましたし、わたしたちの消費行動が、その理念や活動を支援することにつながると気付けました。

赤石先生:「環境に負荷をかけない生活をしたいので、モノを捨てたくない」といった意見も出たので、たとえば、”50年つかえて捨てる必要のないテレビ”を、という切り口から、パナソニックさんと我々消費者が、持続可能なモノづくりについて対話する機会を今後も持てたらと思います。

今後の展望について教えてください。

徳地先生:研究の話で言いますと、山の湧き水や、海の水の質を見ていくことが重要になります。たとえば、登山が好きな人、サーフィンが好きな人、それぞれに定期的に水質サンプルを採って送ってもらえると、とても助かります。

その行動がまわり回って地球環境問題の解決につながり、自分の好きな登山やサーフィンをもっと長く楽しめることになります。

赤石先生:まさに市民参加の活動ですね。わたし個人としても市民向けセミナーを計画中なので、ぜひ実現したい取り組みですね。

中田氏:送るのは水そのものではなく、水質データでも良いわけですよね?たとえばパナソニックが水質の簡易検査キットを開発すれば、全国から定期的にデータが集まってくる。

徳地先生:そうなると、まさにエコシステムマネジメントの世界ですね。

中田氏:持続可能な社会のためにも、まずは仲間づくりを進めていきたいです。

次回は実際の講義録をお届け予定です。

参考リンクパナソニックの研究開発について

https://www.panasonic.com/jp/corporate/technology-design/r-and-d.html