パナソニックとの共同研究

2020年度より、フィールド研はパナソニックとの共同研究に取り組んでいます。パナソニックが目指すサーキュラーエコノミー、フィールド研ではそれを森里海連環学に基づき考えるため、ILASセミナーで学生たちとパナソニックの社員の方々との交流の場を作り、持続可能で循環型社会を構築するために、私たちに必要なことを議論しました。

以下は、パナソニックの社内報に載った記事で、一部を修正してこちらに転載します。

パナソニックさん、“50年つかっても捨てる必要のないテレビ”ありますか?

これらは、「持続可能な社会をつくるためには、どうすればよいのか。わたしたちには何ができるか?」の問いに対する、学生たちの答えです。約半年間におよぶ京都大学、京都芸術大学、そしてパナソニック株式会社(以下、パナソニック)による合同セミナーを通して、学生たちは、そしてパナソニックの社員も多くの気づきを得て、「持続可能な社会」に一歩近づくことができました。

About

持続可能社会に向けた「自然・こころ・社会」に関する共同研究。2020年5月に開始した、京都大学フィールド科学教育研究センターと京都芸術大学そしてパナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部(以下、MI本部)による取り組みです。2020年度は、京都大学の1回生向けのILASセミナーを開講。

ILASセミナーとは「学問の楽しさや意義を実感してもらうことにより、勉学生活への導入を目標として開講される」もので、高校までの”学習”とは異なる、大学ならではの自ら問い学ぶ”学問”に慣れるためのセミナーです。

「1×2×3×4=サスティナブル(1次産業、2次産業、3次産業、4(アート)の掛け算。産業横断、学部横断でサスティナブリティについて考えよう!)」をテーマとした本セミナーに履修登録した学生は8名。そのほか、多数の聴講生や、パナソニックの社員も参加。学生、教授、会社員、それぞれの視点から互いに刺激し合い、学び、考え、対話を重ねてきました。

読者のみなさんもセミナーに疑似参加していただき、持続可能社会について考えてみてください。

連載第1回目となる本記事では、セミナーの運営に深くかかわってくださった徳地先生、赤石先生、MI本部 マニュファクチャリングソリューションセンター所長中田氏に、セミナーの目的や受講生の変化、今後の展望についてお尋ねしました。

Interview

徳地 直子 さん

京都大学フィールド科学教育研究センター・センター長 教授

大学院で森林生態系の窒素循環に取り組み、現在に至る。フィールド科学教育研究センターのミッションである森里海連環学について物質循環からアプローチするが、森里海連環が抱える問題が単なる物質の連環ではないことから苦戦を続けている。最近は、次の世代と持続可能な生態系に基づいた安心した暮らしするためにできることを考えている。

赤石 大輔 さん

京都大学フィールド科学教育研究センター 特定助教

大学、NPO法人、自治体、国の中間支援組織の職員を経験。域学連携の事業立案、 NPOの設立・運営、自治体の里山保全計画の策定、地域環境課題解決に向けた協働取組の中間支援など、研究者の枠を超え様々な経験を積む。森里海連環再生プログラムでは社会連携推進を担当。持続可能型社会に向けた多様なステークホルダーによる協働の場の創出を得意とする。

中田 公明 さん

パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 マニュファクチャリングソリューションセンター所長

1986年、松下電工(当時)に入社。金型、成形加工、シミュレーション(CAE)、レオロジー、LED照明の製造、金属3Dプリンタ、カスタマイゼーション、BIMなどを経験。とくに射出成形(プラスチック部品の加工プロセスをシミュレーションによって計算・設計)の技術を長年にわたり研鑽。2019年から現職に就き、サーキュラーエコノミーを知り、使命として認識。

本プロジェクトの成り立ちを教えてください。

中田氏:もともと京都大学とパナソニックは、こころの未来研究センターをはじめとして、いろいろな産学連携や共同研究をしています。MI本部は技術研究部門ですから、関わりも多い。そのひとつが、森里海連環学と共同で、持続可能社会を考える今回の取り組みです。

徳地先生:森里海連環学は、森から海における生態系間のつながり、生態系と人のつながりを考える学問です。森に降った雨は、湧き水や川となって里まで流れ、人の暮らしを潤し、海に出て、また雨になります。この関係は一方通行ではなく、相互に影響・関係する「連環」です。この連環の解明こそが、地球環境問題の解決の鍵であり糸口と考え、研究しています。

中田氏:パナソニックも環境に配慮した技術研究は進んでいますが、根本的な社会構造の変革にまで踏み込んだビジネスモデルの検討には至っていないのが現実です。そこで今回、持続可能社会に向けた「自然・こころ・社会」に関する共同研究を行い、新しい社会心理に適合するビジネスモデルを考え、そこからのバックキャストで技術開発の方向性を再定義しよう、と考えたのです。

つまり、「あるべき未来像と、その社会心理」を見つけて、そこからの逆算で必要な技術を開発していこう、という発想です。

徳地先生:わたしたちは研究者ですから、森の水質や海の水質を見て、その連環を解き明かすことが命題です。けれどそこにパナソニックさんのような企業活動が入ってくることで、机上の空論ではない、現実的な解決方法が見えてきます。

もともと持続可能性を考えるセミナーを計画していたタイミングでコラボの話をいただき、実現へと進みました。セミナーにはわたしだけではなく、赤石先生や環境省から出向しているメンバー、企業の方、いろんな人に参加してほしかったので、とても良いタイミングでした。

出典:http://www.cohho.kyoto-u.ac.jp/about/cohho/

いろいろな人が参加したことのメリットはありましたか?

徳地先生:多方面からの提案や意見を聞けたことが大きかったですね。

赤石先生:枠が外れたことも大きなメリットだと思います。研究者は、どうしても自分の専門分野から外に出ることが苦手です。けれど、そこにパナソニックさんが入ることで、否応なしに企業活動との関連性を説明せざるを得ない。

個々の課題を提示するだけにとどまらず、実は課題同士がつながっていることも学生に伝えられました。自然科学を道具に、社会科学にアプローチした感じです。

セミナーはオンラインで開催されたのでしょうか?

赤石先生:当初は対面で開催する予定でしたが、やはり新型コロナの影響で、オンラインに切り替えました。slackを使って対話や議論を重ねていきました。学生にとっても、わたしたちにとっても特異な体験ですね。

徳地さん:結果として、1回生にとっては学問に触れる機会となり、社会との接点をつくり、学生同士のつながりも芽生える場となりました。対面に負けない刺激の多さだったと思います。

Slackを使った議論にも、学生たちはスムーズに適応。

学生の皆さんに変化はありましたか?

赤石先生:最初は「持続可能性」の言葉自体が、抽象的でした。自分の言葉になっていないような。それがセミナーを通じた対話を重ねて、自分の頭で考えるようになり、身近な問題や不都合に気付いて実感し、具体的な意味を持つ言葉に変わっていきましたね。

徳地さん:ある工学部の学生は「自分は工学の道に進むので、自然世界に関わることが少ないと思い、このセミナーを受講しました」と語っていました。このセミナーが終わったら、自然世界のことは忘れてしまうのかな、と思っていました。ところが、このセミナーのほかにも屋久島の調査に参加しようとするなど、自然世界に興味を持つようになり、視野を広げてくれたんです。

パナソニックの社員はどうですか?

中田氏:学生のみなさんの知識への意欲や、セミナーのなかで出てくる意見に刺激を受けていました。各回のテーマだけではなく、関連するテーマや社会全体へと視野の広がった社員が多かったです。

我々の技術研究もフォーカスポイントを絞りがちですが、そもそも何を解決するための技術なのか、この技術によって人々の暮らしはどう変わるのか、技術を受け取った人はどう反応するのか、といった広い視野が必要です。その気付き、訓練として今回のセミナーはとても有意義だったと確信しています。

徳地先生:パナソニックさんも、いろいろ考えている、試みていることがわかって、とても興味深かったです。そこに共感できましたし、わたしたちの消費行動が、その理念や活動を支援することにつながると気付けました。

赤石先生:「環境に負荷をかけない生活をしたいので、モノを捨てたくない」といった意見も出たので、たとえば、”50年つかえて捨てる必要のないテレビ”を、という切り口から、パナソニックさんと我々消費者が、持続可能なモノづくりについて対話する機会を今後も持てたらと思います。

今後の展望について教えてください。

徳地先生:研究の話で言いますと、山の湧き水や、海の水の質を見ていくことが重要になります。たとえば、登山が好きな人、サーフィンが好きな人、それぞれに定期的に水質サンプルを採って送ってもらえると、とても助かります。

その行動がまわり回って地球環境問題の解決につながり、自分の好きな登山やサーフィンをもっと長く楽しめることになります。

赤石先生:まさに市民参加の活動ですね。わたし個人としても市民向けセミナーを計画中なので、ぜひ実現したい取り組みですね。

中田氏:送るのは水そのものではなく、水質データでも良いわけですよね?たとえばパナソニックが水質の簡易検査キットを開発すれば、全国から定期的にデータが集まってくる。

徳地先生:そうなると、まさにエコシステムマネジメントの世界ですね。

中田氏:持続可能な社会のためにも、まずは仲間づくりを進めていきたいです。

次回は実際の講義録をお届け予定です。

参考リンクパナソニックの研究開発について

https://www.panasonic.com/jp/corporate/technology-design/r-and-d.html