研究紹介


2023年2月10日掲載

1950年代にタネから育てられたモウソウチクがついに一斉開花しました

森林総合研究所関西支所 小林慧人

 京都嵯峨野の竹林の道や春の白子筍で有名なモウソウチク(孟宗竹)は、イネ科タケ亜科マダケ属に属する大型のタケです。諸説あるものの、江戸時代に中国から鹿児島に導入された株が株分けされて日本各地へ広がったという説が有力視されています。このモウソウチクについて、地下茎を伸ばし、筍を出すという栄養成長はよく知られていますが、花を咲かせることもあることをご存じでしょうか。ここ数年、メディア等で「竹の花」と取り上げられるのは、同じマダケ属のハチク(クロチク、ウンモンチク)やスズタケのおよそ1世紀ぶりの一斉開花の事例が多いです。野外で観られるモウソウチクでは、こうしたハチクやスズタケに見られるような広域の一斉開花ではなく、局所的に小面積・小規模で開花する性質をもつことが一般的です(部分開花と呼ばれます)。咲いた時の開花稈の本数が少なく、通常、1~数10本程度の稈が開花します(小林・小林2019)。開花する季節は夏で、全国見渡せば毎年のようにどこかの竹林で咲いています。ただ、小規模であることや見上げる必要のある高い位置で咲いているために、開花中にはなかなか気づきにくいものです(図1)。
 一方、モウソウチクにおいて、部分開花ではなく、一斉開花してタネを作り生涯を終える性質も稀ながら報告されています。これは、日本国内の研究機関のタケ見本園等で20世紀前半から始まった大実験(近野1937)において、蒔かれたタネから開花するまでの年数を調べる際に報告があります。この実験は近畿や関東地方にある複数の研究機関のタケ見本園を中心に現在も続けられているのです。ここ上賀茂試験地のタケ見本園でも、竹研究で世界的に有名な故・上田弘一郎先生らが現職の時代にタネ蒔きされました(あるいはほかの場所から実生苗が導入されました)。その後、歴代の職員の皆さんによって見守られてきたモウソウチクが何系統もあります。
 20世紀のうちにタネから開花までの年数が明らかになった系統として2例が知られています。1例目は、1913年に発芽したモウソウチクで1979年に一斉開花し、2例目は、1931年に発芽したモウソウチクで主に1997年に一斉開花し、いずれも開花から67年目に一斉開花しています(Watanabe et al. 1982; 柴田1999)(表1)。2例ともに上賀茂試験地から報告されたものです。上賀茂試験地以外の地域でも同じ系統が同時期に開花した記録があります。その後、21世紀に入ってからはこうした開花は観察されていませんでした。
 ところが2021年7月末に大きな動きがありました。きっかけは、富士竹類植物園(静岡県駿東郡)で1950年代より栽培されてきたタネを蒔いた記録のあるモウソウチク林の一斉開花が始まったことです。渡邊政俊博士(元上賀茂試験地職員、現竹文化振興協会専門員)のもとにこの話が入り、渡邊先生に代わって私が上賀茂試験地のモウソウチクの現状を確認したところ、1区画のモウソウチク林がまさに一斉開花中であるとわかりました(図2)。私にとってモウソウチクの一斉開花を見るのは初めての経験でしたから思わずガッツポーズで、この日ばかりは非常に嬉しかったことを思い出します。その後、過去の台帳、残された石標、職員らへの聞き取りを行いました。その結果、両見本園のモウソウチクは別系統であり、年齢はそれぞれ上賀茂試験地で推定 66 年、富士竹類植物園で推定67 年であることがわかりました(Kobayashi et al. 2022)。先行事例をあらためて整理することによって、見本園でタネから育てられたモウソウチク林の一斉開花は今回で国内3、4例目となりました。年数は66–69 年(主に67年)となっています(表1)。同じモウソウチクという種類において、野外で株分けされて生育するものとタネから育ったものとで開花の様式(部分開花、一斉開花)が異なるのはなぜなのでしょうか。また、一斉開花する系統では開花までの年数がなぜ67年前後に集中するのでしょうか。こうした疑問については、今後分子生物学的なアプローチ等によって解明されることが期待されます。実は2022年7月にも上賀茂試験地内の別区画で5例目となる一斉開花が見られ、そちらについては現在情報を整理してまとめているところです(表1)。
 2021年7月に開花したモウソウチク区画では、11~12月に枝を取ってタネを探しました。採ったタネを2022年4月に蒔いて発芽させ、現在、私の職場で実生の栽培試験を行っています(図3)。上賀茂試験地でも開花系統の2世代目の保育に向けて職員さんらがタネを保管し、発芽した実生を栽培しています。また、開花した区画の中では、モウソウチクが開花後どのように衰退・枯死するのかを、地上部や地下部の各器官の定期的な観察やサンプル採取を通して明らかにしようとしています。
 主に21世紀前半から中盤にかけて、当時の研究者らによって企画されて始まったモウソウチクの開花年限を調べるための大実験。1979年、1997年、2021年に上賀茂試験地でそれぞれ開花した別系統のモウソウチクは現在それぞれ2世代目が生育しています。2022年のものについても今春には2世代目の誕生が期待されます。これらは次いつ咲くのでしょうか?仮に67年ほどで咲くのであれば、次の開花はそれぞれ2046年頃、2064年頃、2088年頃、2089年頃となります。また、上賀茂試験地内では未だに咲いていないモウソウチクの系統もいくつかあります。これらが次いつ咲くのかは今のところよくわかりません。このようなことを頭の中で想像すると、世代を超えて研究を引き継ぐことが非常に大事であることをつくづく感じます。私のようにただ目の前のものを観察して記録するというタイプの人でもいいですが、新たな技術を駆使して開花の謎の解明に挑みたいという人にもぜひ参画いただき、研究のバトンを何とか未来につないでいきたいものです。
 以上で紹介した話は、地味ではあるものの世界に胸を張って発信できる成果です。こうした成果を報告できるのは職員の皆さんの日頃からの管理に支えられています。私は最後の最後にいいとこどりをしているような気もします。しかし現象の凄さに心躍らせ、書き残してその価値を発信できるのは私のような研究者にできる役割だと思いますので、今後も職員の方々と連携しつつ研究を継続したいと思っています。

(参考文献)
・小林慧人、小林剛(2019)高知県土佐市のモウソウチク林分で生じた高密度の局所開花、森林応用研究28:11-15.
・Kobayashi K, Nishiyama N, Kashiwagi H and Shibata S (2022) Mass-flowering of cultivated Moso bamboo, Phyllostachys edulis (Poaceae) after more than a half-century of vegetative growth. Journal of Japanese Botany 97(3):145-155.
・近野英吉 (1937)三百年計画、竹の開花年限に関する実験を開始す. 山林656:20-24.
・柴田 昌三(1999)京都大学大学院農学研究科附属演習林上賀茂試験地におけるモウソウチクの開花 -日本で2回目に確認された周期67年の開花の事例-.Bamboo Journal 16:1-11.
・Watanabe M, Ueda K, Manabe I, & Akai T (1982) Flowering, seeding, germination, and flowering periodicity of Phyllostachys pubescens. Journal of the Japanese Forest Society 64:107–111.

略歴
同志社大学理工学部卒業後、京都大学大学院農学研究科進学。2021年3月に日本のタケの生態に関する研究で博士号(農学博士)を取得。現在、森林総合研究所関西支所のテニュアトラック研究員。専門は森林生態(竹林生態)学。竹文化振興協会発行の会誌「竹」や学術雑誌Bamboo Journalの編集に携わる。
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図1 野外環境下におけるモウソウチクの典型的な咲き方の例。モウソウチクと樹木の混合林にてモウソウチク稈1本が開花した後の様子(a)。7-8月頃に開花したと推定されるが、私が気づいたのは、周辺に設置していたリタートラップへの花の落下を確認した12月末のことであった(b、矢印)。2021年12月撮影(京都府京田辺市)
図2 上賀茂試験地のタケ見本園内、モウソウチク1区画における一斉開花の様子(a)、開花中の花穂(b)、建てられていた石標(c)。開花後翌年には、タイワンタケクマバチが一部の稈で巣作りに勤しんでいた(d)。a-cは2021年7月、dは2022年5月撮影。
図3 開花稈から採れたモウソウチクの頴果(a)と関西支所内で栽培中のモウソウチク実生。aは2021年11月、bは2022年7月撮影。
表1 モウソウチクの開花年限を明らかにするための長期プロジェクト。2022年までに実生から開花までの追跡に成功した記録をまとめた。5例のうち、上賀茂試験地からは*で示す4例が観察されている。

上賀茂試験地では、タケ見本林の維持管理を行っており、維持管理に関して小林研究員らと情報共有し、アドバイスもいただいています。
また、一部研究に関する作業については、職員が研究補助として携わっています。