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研究ハイライト

標茶区における外生菌根菌相調査

京都大学フィールド科学教育研究センター 杉山 賢子

 2022年より、標茶区で外生菌根菌に関する調査を始めました。
 我々が普段見かける植物のほとんどは、根で何かしらの菌類と共生しています。中でも、ブナ科・マツ科・カバノキ科など森林の主要な樹種の根に感染し、相利的な養分の授受を行っているのが、今回の研究対象である外生菌根菌です。これら樹木の定着や生育には外生菌根菌との共生が不可欠であることから、外生菌根菌は森林の管理においても無視できない存在といえます。

 北海道研究林で植栽されているカラマツ・トドマツ・アカエゾマツといった樹種はいずれも外生菌根菌と共生する樹種です。林にどのような外生菌根菌が定着するかは、その林の樹種組成や土壌環境といった林自体の環境要因に加え、外からどのような菌が加入してくるかといった周囲の林の影響も受けて変化すると考えられています (より広域には気候なども影響)。しかしこれまでの研究では、調査対象となる林自体の環境が着目されることが多く、周囲の林の影響についてはわかっていない部分が大きいです。

 外生菌根菌は胞子を飛ばして新たな林に定着します。加えて菌種によって感染可能な樹木分類群が異なるため、どのような距離にどのような樹種組成の林があるかによって加入してくる外生菌根菌の種組成やその定着率が変化することが予想されます。本研究では、異なる樹種組成の林がモザイク状に広がる標茶区において外生菌根菌相の継続的な調査を行うことで、距離と樹種組成の影響を分離して周囲の林の影響を評価していきたいと考えています。

 2022年は、標茶区で最も植栽面積の広いカラマツに着目し、同じ樹種でも林分間の位置関係や隣接する林分の樹種組成の違いにより外生菌根菌相が変化するのかを調査しました。調査は地図に示したカラマツ人工林9林分で、6月、8月、11月の計3回行ないました。
 調査により、カラマツ林分間で外生菌根菌組成が異なること、その組成の違いは隣接する林分の樹種組成では説明されず、調査林分間の位置関係により一部説明されるということが示されました。しかし、どの林分間で外生菌根菌組成が類似する (または異なる) かというパターンは月によって異なっていました。大まかに、8月は北 (A, B) と南 (G-I) でも組成が似ていたのに対し、11月は北から南にかけて組成が変化していくという傾向が見られました (6月は空間構造見られず)。また、林分間で共有される外生菌根菌OTU (塩基配列の相同性に基づくグループ、今回はおよそ種に相当) 数も月によって変化していました。月により傾向が変わった理由は単年の調査ではわからないため、継続的な調査が必要です。

 また、興味深い結果として、林分間で共通のOTUが優占するという結果も得られました。中でも、9林分全てで得られたラシャタケ属のOTU (11月は8林分のみから検出) は、林分ごとの出現頻度も最も高く、カラマツの生育に対する影響が気になるところです。

 2022年はカラマツ林のみで調査を行いましたが、周囲の林からどのような菌種が加入してきているかを知るためには、他の樹種の外生菌根菌組成も調査する必要があります。2023年は樹種を増やして調査を継続する予定です。また現在は、定着済みの外生菌根菌に着目していますが、今後、林間での菌の移動分散も評価するべく、方法を検討中です。

北海道研究林標茶区内の調査地図示。研究林内を広くカバーする
調査地同士での外生菌根菌組成同異関係図。調査地間距離が関係か
調査地同士での外生菌根菌組成関係図
線が太い林分間で共通のOTUが多く見られた
調査地に繁茂するササの隙間から調査者の帽子がわずかに覗く様子
調査の様子
ササの隙間から被っているヘルメットが垣間見える
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フィールド

アオイスミレ

標茶区構内にて、アオイスミレが咲いています。

アオイスミレは標茶区構内でみられるスミレの中では一番早く咲きます。
標茶でも少しずつ花が増え始め、春の空気になってきたことを感じます。

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フィールド

クリーンラーチの芽吹き

4月に入り、標茶でも暖かい日が続いています。
構内の苗畑に仮植してあるクリーンラーチ(カラマツ×グイマツによる雑種F1の材積成長に優れた特定品種)の冬芽が緑色になってきました。

今年、昨年度の植栽地に補植をする予定です。
シカやウサギ、ネズミにやられず元気に育ってくれることを願います。

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フィールド

フキノトウ

フキノトウ
フキノトウ

3月の終わり、標茶区構内でフキノトウが出てきているのを見つけました。
北海道に分布するのはフキの亜種のアキタブキです。雄株の頭花は黄色っぽく、雌株の頭花は白っぽいので、写真は雌株だと思われます。
春の味覚の一つですね。
ちなみに、秋田弁ではフキノトウを「ばっけ」などの言い方をします。
アイヌ語では「マカヨ」と呼ぶそうです。

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フィールド

キタミフクジュソウ

全国的に駆け足で桜前線が北上していますが、標茶区も例年よりやや早く3月15日にキタミフクジュソウが開花しました。4月を迎える前に構内ではたくさん咲いています。

他に開花している植物がない中、ハエの仲間などの昆虫が花に訪れています。フクジュソウには蜜腺はなく、パラボラアンテナのような花びらを太陽に向けることで熱を集め、そこに昆虫が引き寄せられて花粉を運んでもらっているそうです。

突然の大雪で一面雪景色になる可能性もまだあるのですが、日だまりに咲く小さな太陽は春の訪れを告げているようです。

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イベント フィールド

令和4年度中国・四国・近畿地区大学附属演習林等技術職員研修開催

3月8日・9日に標茶区にて令和4年度中国・四国・近畿地区大学附属演習林等技術職員研修が開催されました。各地の大学から計8名が参加しました。
1日目は標茶町博物館の見学と塘路湖周辺の散策、標茶区構内の見学を行いました。夕方には林長による概要説明と講義がありました。
2日目の午前中は山スキーを履いて冬の樹木識別を行いました。北海道研究林職員により、識別ポイントの解説を受けながら、冬芽や樹皮などを観察しつつ山スキーの体験をしました。冬芽による識別を新しく感じた受講者も多かったようで、各々吸収するものがあったのではないかと思います。
2日目の午後には積雪調査とスノーシューを履いての樹木識別を行いました。だいぶ暖かくなってきており、はっきりとした層の違いを見ることはできませんでしたが、調査の方法や雪崩の起きやすさとの関係などを学びました。
各大学の技術職員が集まることで、情報交換も行われ、お互いに実りある研修となったのではないかと思います。

 

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フィールド 実習

2022年度 研究林実習Ⅳ

【標茶】2/20~26に、本学の農学部森林科学科の学生を対象とした研究林実習Ⅳが行われました。今年度の参加学生数は18名でした。

新型コロナウィルス感染対策等でここ数年は実施できておりませんでしたが、今年度は実施が叶いました。

研究林内では冬季の樹木(冬芽等)識別と自然観察、特用林産物生産体験、積雪調査、天然林毎木調査、樹木識別テストを行いました。また地域の林産業と道東の自然観察として木材コンビナート、トドマツ精油抽出プラント、阿寒摩周国立公園周辺地域の見学を行いました。

質疑応答が途切れることなく続き、やや時間が押してしまうなど大変意欲的な姿勢が印象的でした。直前の下見では動いていても体の芯まで冷える寒さでしたが、幸い実習期間中は概ね天気も良く活動しやすい気候となりました。健康を害さない程度でほどよく道東の寒さを体感してもらえたことでしょう。実習自体の充実はもちろんですが、それ以外の部分でも良い体験をする機会になっていれば嬉しいですね。

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フィールド

アカゲラ

標茶区でよく見かけるキツツキのひとつがアカゲラです。

頭と下腹部の赤色がおしゃれです。

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フィールド 業務

寒い実習にご用心

3年ぶりとなる冬の学生実習「研究林実習Ⅳ」を翌週に控え、山スキーで歩くコースの下見に行きました。

この日の最低気温は-14.0℃で冷え込みは弱かったのですが、最高気温が-7.4℃と上がらなかった上に、強い風が断続的に吹きました。そのため日差しはあるものの非常に寒い山行となりました。

声は風音で遮られ、手はかじかんでメモを取る気力も湧かず、休憩して弁当を食べるよりも早く帰ろうという判断となりました。

参加される学生さんは防寒対策をしっかりとしてきてください。ウールなど速乾、保温性のある素材のインナー(綿や発熱素材は汗冷えの恐れあり)、インナー手袋、ネックウォーマー、目出し帽といった衣類に加え、懐炉、温かい飲み物を入れる保温性のある水筒、雪の上に座ってもお尻が濡れない敷物なども重宝するかもしれません。ポイントは行動中は汗をかかず、止まっているときは寒くないことです。

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フィールド

氷筍

昨年12月に発生した、職員宿舎のストーブ排気筒下に伸びた氷筍が、150cmを超えました。
排気中の水蒸気が排気筒上で結露し滴下して凍っているのではないかと思われます。

研究林の気象観測値では、この冬の標茶区の最低気温は-24.5℃(1/30)を記録し、最高気温が氷点下である真冬日は、1/21から1/31まで11日連続となっています。

1年で一番冷え込む時期ですが、日脚が伸びてきており、季節は少しずつ春に向かっていきます。