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道東地域における地磁気永年変化の観測

北海道大学大学院理学研究院 橋本武志

 京都大学北海道研究林のある道東地域では、太平洋沿岸域の地磁気が周辺と比べて顕著に強いことが知られています。こうした磁気異常は、千島海溝沿いに点々とみられるもので、太平洋プレートの沈み込み活動に伴い、磁性鉱物に富む岩石が地下にできているためではないかと考えられています。千島海溝沿いでは、プレート境界型の大地震が数10年間隔で発生しており、平時には、この地域の地盤は西北西−東南東方向の圧縮を受けています。磁性を帯びた岩石が圧縮されると、周辺の磁場が変化することが知られており(応力磁気効果と呼ばれます)、それを念頭に地磁気と大地震の関係を調べるために、この地域では1970年代から北海道大学が地磁気観測を続けています。現在は、京都大学北海道研究林標茶区(図1のSHI)を含め、道東地域の8カ所に磁力計を設置して連続観測を行っています。

(図1)北海道周辺の磁気異常分布(NOAAのEMM2010モデルによる。単位はナノテスラ)と道東地域の地磁気観測点(MMBは気象庁の女満別観測所、それ以外は北海道大学の磁力計設置点)

 この地域の地磁気は、その経時変化も特異であることが、私たちの観測で明らかになっています。元来、地磁気の年単位のゆっくりとした変動(永年変化)の大半はグローバルな現象であり、地球深部(外核)起源と考えられています。このため、道東地域程度のスケールでは永年変化の傾向はほぼ同じです。しかし、各観測点の変化をMMB(気象庁女満別地磁気観測所)からの「ずれ」としてより詳しく見てみると、太平洋岸に近いところでは、内陸に比べて永年変化の傾きが顕著に大きいことがわかりました。

 このような観測結果は他の地域で報告例がありませんが、プレート運動などの地殻活動に起因している可能性があります。さらに、2016年頃からこの変化の傾きが小さくなってきていることもわかってきました。これが地殻起源のシグナルかどうかは現時点では判断できませんが、今後も粘り強く観測を続け、この現象の正体を明らかにしていきたいと考えています。