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日本新産種のキクラゲAuricularia americana s. str.

北海道研究林白糠区で採取されたキクラゲが日本国内で初めて記録された種として報告されました。

このキクラゲは2020年9月に天然林での調査中にトドマツの落枝についていたものと、2021年4月にトドマツ造林地の除伐中に、枯死した個体の幹についていたものを技術職員が採取したもので、栃木県内のウラジロモミに発生していたものとともに、三重大学の白水貴博士らによって分子系統解析と形態比較が行われA. americana s. str.と同定されました。

これまで国内において正式なA. americana s. str.の報告がないため,本種の日本初報告となりました。
北海道から多くの標本が得られたことから、A. americana s. str.の和名としてキタキクラゲと提唱されました。

白水博士によると、市場に広く流通しているキクラゲ属菌の栽培では、培地の主原料として広葉樹材が用いられており、針葉樹材の利用は不適とされています。
一方、A. americana s. str.の子実体はモミ属やマツ属などマツ科の針葉樹材上に発生することから、針葉樹材を用いたキクラゲ属菌栽培手法の確立において有望な系統となることが期待されています。

枯死したトドマツについていたキクラゲ
枯死したトドマツについていたキクラゲA. americana s. str.
Microscopic morphology of Auricularia americana s. str. (TNS-F-91421). A: Abhymenial hairs. B: Basidia. C: Basidiospores. Bars: A 20 µm; B, C 10 µm.

白水貴,大前宗之,新井文彦,稲葉重樹,服部友香子(2021)日本新産種Auricularia americana s. str. (キクラゲ目).日本菌学会会報62.125–130

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道東地域における地磁気永年変化の観測

北海道大学大学院理学研究院 橋本武志

 京都大学北海道研究林のある道東地域では、太平洋沿岸域の地磁気が周辺と比べて顕著に強いことが知られています。こうした磁気異常は、千島海溝沿いに点々とみられるもので、太平洋プレートの沈み込み活動に伴い、磁性鉱物に富む岩石が地下にできているためではないかと考えられています。千島海溝沿いでは、プレート境界型の大地震が数10年間隔で発生しており、平時には、この地域の地盤は西北西−東南東方向の圧縮を受けています。磁性を帯びた岩石が圧縮されると、周辺の磁場が変化することが知られており(応力磁気効果と呼ばれます)、それを念頭に地磁気と大地震の関係を調べるために、この地域では1970年代から北海道大学が地磁気観測を続けています。現在は、京都大学北海道研究林標茶区(図1のSHI)を含め、道東地域の8カ所に磁力計を設置して連続観測を行っています。

(図1)北海道周辺の磁気異常分布(NOAAのEMM2010モデルによる。単位はナノテスラ)と道東地域の地磁気観測点(MMBは気象庁の女満別観測所、それ以外は北海道大学の磁力計設置点)

 この地域の地磁気は、その経時変化も特異であることが、私たちの観測で明らかになっています。元来、地磁気の年単位のゆっくりとした変動(永年変化)の大半はグローバルな現象であり、地球深部(外核)起源と考えられています。このため、道東地域程度のスケールでは永年変化の傾向はほぼ同じです。しかし、各観測点の変化をMMB(気象庁女満別地磁気観測所)からの「ずれ」としてより詳しく見てみると、太平洋岸に近いところでは、内陸に比べて永年変化の傾きが顕著に大きいことがわかりました。

 このような観測結果は他の地域で報告例がありませんが、プレート運動などの地殻活動に起因している可能性があります。さらに、2016年頃からこの変化の傾きが小さくなってきていることもわかってきました。これが地殻起源のシグナルかどうかは現時点では判断できませんが、今後も粘り強く観測を続け、この現象の正体を明らかにしていきたいと考えています。

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フィールド 研究ハイライト

常駐学生が森林学会学生奨励賞を受賞

北海道研究林に常駐し研究をされている本学博士課程2回生の中山理智氏が、2021年森林学会学生奨励賞を受賞されました。
そこで受賞された研究について、インタビュー形式で研究紹介をしていただきました。

Q. 今回の受賞にあたり、まずは一言お願いします。
A. 栄誉ある賞をいただき光栄に思います。この受賞によって調査地である北海道研究林に興味を持つ研究者が増えるかと思いますが、学部のころから非常にお世話になった北海道研究林への恩返しとなればいいなと思います。

Q. 簡単に研究内容のご紹介をお願いします。
A. 本研究は「天然林を人工林にした時に土壌の中の微生物にどんなインパクトがあるのか?」を明らかにしようとしたものです。細菌や真菌などの土壌の微生物は落ち葉や動物の遺体を分解し、植物が使える養分に変えてくれるので森林における植物の健全な成長には欠かせない存在です。森林土壌をひとつかみするとその手の中に数百, 数千億もの細菌や真菌が生きています。多様で目に見えない微生物も人や動物のように他の微生物と関係しあって生きています。本研究では微生物同士の共存関係に特に重点を置きました。結果として、人工林では天然林よりも細菌同士の共存関係が失われており、特にカラマツ人工林でトドマツ人工林よりも共存関係の喪失が強くみられました。共存関係が少なくなると微生物が担う機能が低下したり、さらなる環境の変化に弱くなったりすると言われています。このことから、本研究は人工林造林における樹種選択には微生物の共存関係を考慮する必要があることを指摘しました。

Q. 論文を執筆する際に一番苦労されたことは何でしょうか?
A. 微生物の研究は現在はDNA分析などの分子生物学的手法ものが主流となっています。分子生物学的な分析や解析は日進月歩なので、数年前に最新だった手法では太刀打ちできないこともあります。最先端の分析技術はなかなか使えないので、アイデアでどう勝負するか考えることが一番苦労したところではないでしょうか。

Q. 今後の展望など、最後に一言お願いします。
A.本研究では40年生ほどのトドマツ人工林、カラマツ人工林を用いました。今後はより樹種を増やすなどして、どの樹種が生態系へのインパクトが少ないのかを明らかにしたいと考えています。また一度失われた共存関係は100年ほどで回復するといわれていますが、回復過程にも樹種の違いがあるのかも解明したいです。最終的にはこうした知見をもとにより長期的に持続可能な人工林管理方策を立案できればいいなと思っています。

常駐されているので普段から顔を合わせはするものの、研究内容については具体的に知らないことが多く、今更ですが研究イメージを掴むことが出来ました。
今後も当研究林を利用して素晴らしい研究を続けていただきたいと思います。
本当に受賞おめでとうございました。