概要

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沿革

 本研究林の歴史は、大正10(1921)年、京都帝国大学が学術研究及び実地演習を目的に北桑田郡知井村の南ほか八ヶ字(当時)が保有する共有林の一部(4,180.5ha)に99年の地上権を設定し、芦生演習林と称したことに始まります。その後、事務所、苗畑、宿舎等の用地を購入するなどして整備をすすめました。平成15(2003)年4月、フィールド科学教育研究センターの発足に伴い、森林ステーション・芦生研究林と改称されました。平成28(2016)年には、京都丹波高原国立公園の指定に伴い、本研究林の大部分が第1種・第2種特別地域となりました。
 令和2(2020)年4月には、30年の地上権を再設定しました。

植物相と植生

 本研究林は気候区分では日本海型と太平洋型の移行帯に位置し、植生区分の上からも暖温帯林と冷温帯林の移行帯に当たるため、植物の種類が多いです。著名な分類学者の中井猛之進博士が「植物ヲ學ブモノハ一度ハ芦生演習林ヲ見ルベシ」(植物研究雑誌,17:273-283,1941)と書いた森林であります。本研究林内で確認されている種数(亜種等を含み植栽種は除く)は、木本植物273種、草本植物654種、シダ植物120種となっています(合計1050種。暫定値)。200種は「京都府レッドデータブック2015」に記載されています。

 本研究林内にはエゾユズリハ、ヒメアオキ、ヒメモチ、ハイイヌガヤなどの多雪地域に特有の植物が自生しており、日本海型の気候条件を反映しています。天然林では標高600m付近まではコナラや常緑広葉樹であるウラジロガシなどの暖温帯林構成種が見られます。それ以上の標高ではブナ、ミズナラを主体とした冷温帯林構成種が見られますが、森林帯の境界は不明瞭です。一方で、氷河期の遺存種であるゼンテイカやリュウキンカも生育しています。

 傾斜地形の多い本研究林では斜面に対応した樹木の分布密度の変化が見られます。斜面上部ではアシウスギの分布密度が高く、中腹ではブナを主にミズナラなどが優先し、斜面下部から沢沿いの湿潤なところにはトチノキとサワグルミが優先しています。アシウスギには、主に若木個体などの下枝が雪圧によって接地・発根し、やがて1個体となる多雪地に特有の更新様式(伏条更新という)が見られます。本研究林の冷温帯下部に属する天然林は、大規模に残された森林として西日本有数であり、貴重なものとなっています。

動物相

 大型のほ乳類としては、ツキノワグマをはじめ、カモシカ、ニホンジカ、ニホンザル、イノシシ、タヌキ、キツネ、アナグマ、ノウサギなどの生息が確認されています。また、小型のほ乳類としては、ヤマネ、ムササビのほかクロホオヒゲコウモリやミズラモゲラなど、生物地理学上また分類学上貴重な種も見つかっています。鳥類は、コノハズク、ヤマセミ、アカショウビン、オシドリ、アオバト、キバシリや猛禽類のオオタカ、ツミ、ハイタカ、クマタカなどが棲息し、稀にイヌワシも見られ、33科111種の鳥類が記録されています。爬虫類では、ヤマカガシやマムシといった毒蛇や比較的珍しいシロマダラが確認されています。両生類では、特別天然記念物であるオオサンショウウオをはじめ、ハコネサンショウウオ、ヒダサンショウウオ、アカハライモリ、モリアオガエル、ナガレヒキガエルなどが棲息しています。蝶類ではアサギマダラ、ギフチョウ、ウスバシロチョウ、スギタニルリシジミなどが、またトンボ類ではグンバイイトトンボやモイワサナエなどがカミキリ類ではブチヒゲカミキリ、エゾトラカミキリ、ソボリンゴカミキリ、フタオビミドリトラカミキリなど、貴重な種が数多く記録されています。

きのこ相

 高等菌類(きのこ類)では、1967年に発表された「京都大学芦生演習林の菌類」では288種(変種・品種含む)が報告されていますが、その後の複数の研究も合わせると、少なくとも413種が確認されています。京都府レッドデータブック(2015)によればタマノリイグチは府内では本研究林のみで記録があるが、1968年以来見つからず絶滅種とされています。キイロスッポンタケは1972年以降府内で確認がなく絶滅種とされていましたが、2020年に本研究林で再発見されました。その他、準絶滅危惧種のミミブサタケ、キシメジ、マツタケが確認されています。

森林利用の変遷

 演習林設定以前の江戸から明治期にかけて、林内には木地師の村や、炭焼きで暮らす人々の村がありました。明治から大正にかけてはスギやクリの伐採が行われ、野田畑周辺には茅場があり火入れがされていました。中山周辺では天然スギの保育のために広葉樹の巻枯しが行われていました。

 演習林設定直後、天然スギの伐採により一部林相が悪化したため伐採は中止されました。森林軌道が開設され、昭和20年代までは、由良川本流沿いで椎茸生産、製炭事業などが行われ、跡地にスギ林を造成しました。昭和20年代後半から奥地林開発のための林道開設が始まり、昭和30年代には伐採量はピークをむかえました。伐採跡地にはスギの造林が進められましたが、昭和50年代に入って施業の再検討がなされ、天然林施業が進められました。昭和60年代までに幹線林道がほぼ整備され、総延長34.2kmに達しました。平成以降は、管理・研究・教育目的を除き天然林の伐採は行わず、スギ人工林の保育、天然更新補助作業や広葉樹人工林造成を試験的に行っています。

 現在、本研究林の面積の約半分は、地上権の設定以降、人手が加えられていない天然林であり、樹齢約200年の個体からなる原生的な森林もあります。約1,800haが天然林の伐採跡地に再生した天然生林(二次林)です。スギを主とした人工林は、約250ha造成されています。