保全ための様々な取り組み

 芦生研究林では1990年代後半より、ニホンジカによる下層植生の過採食と生態系の改変が進行しています。
 そこで2006年よりAshiu Biological Conservation Project(芦生生物多様性保全プロジェクト、通称ABCプロジェクト)、2016年より国定公園生態系維持回復事業(京都府の委託事業)など、学内外の研究者や行政との連携のもと様々な保全活動が始まりました。

 ABCプロジェクトのパンフレットはこちら

ゾーニング

 登山者(ハイカー)の皆様に利用していただける登山道を限定しています。
 また利用にあたっての禁止事項も定めています。詳細はこちら
 それ以外の原生的なエリアの一般利用は、芦生もりびと協会所属団体によるガイド同伴ツアーのみ許可しています。これらも限定されたルートのみを人数制限を設けて利用していただいてます。
 こうした対策により、踏み荒らしや盗採の被害を軽減しています。

防鹿柵の設置

 ABCプロジェクト主導のもと、2006年より集水域全体を囲う大規模なシカよけの柵(防鹿柵総延長1.5km、面積13ha)を設置しています。柵のなかでは豊かな下草や若木が回復しました。さらに、京都丹波高原国定公園生態系維持回復事業の一環として、2017年より2基目の大規模防鹿柵(総延長1.9km、面積16ha)を設置しました。そして、草原性・湿原性の植物を保護するための小型防鹿柵も設置しています。またボランティア団体によって山岳地帯での小型防鹿柵の設置も行われています。
 防鹿柵は、単に植生を保護するだけでなく、様々な生物相や生態系機能の変化を把握する学術研究や今後の植生や生態系の回復に資する研究に活かされています。
 豪雪地帯である芦生の森では、防鹿柵の維持も課題です。雪の重みで柵がこわれるのを防ぐため、毎年秋のおわりにネットをおろし、春の雪解けの直後にネットを設置しなければなりません。夏も定期的な見回りが必要です。芦生研究林、研究者、市民研究者、市民ボランティア、企業のみなさんにも助けていただいています。

芦生地域有害鳥獣対策協議会

 京都府、南丹市、南丹市猟友会、芦生研究林、京都大学、地域の関係機関からなる協議会が2008年に設立されました。
 鳥獣保護区の設定に関する協議、ニホンジカの有害捕獲、市民に広くシカの問題を知っていただくための「知ろう守ろう芦生の森」活動を行っています。「知ろう守ろう芦生の森」では、小型柵を設置し、植生回復過程のモニタリングが一般市民によって進められています。

生態系維持回復事業

 2016年に京都丹波高原国定公園が設定され、特に保護すべき地域である第一種、第二種特別地域の大部分が芦生研究林内となっています。
この貴重な生態系を守り回復させるため、京都丹波高原国定公園生態系維持回復事業(京都府)が行われています。上述の2基目の防鹿柵が設置され植生の回復を目指しています。
 柵内と対照集水域を比較することで、シカの食害がどのように植物相や水質や土壌に影響を与えているのか、回復過程のモニタリングを行っています。さらに、ニホンジカの生息頭数の把握及び生態系維持回復に関する普及啓発の促進を行っています。これについては京都府の調査結果を基本に、随時継続的に調査を行っていきます。

希少植物種の域外保全

 2018年6月に締結された「京都府と京都大学との植物多様性保全に関する教育及び研究の連携に関する協定書」に基づき、芦生研究林、京都大学人間・環境学研究科、農学研究科、ABCプロジェクト、京都府立植物園とが協力し、芦生希少植物域外保全プロジェクトを2018年より開始しました。
 これは、研究林内で絶滅に瀕している貴重で希少な植物種の種子や挿し枝を遺伝的多様性に配慮し採取、生育地の外(域外)である京都大学や植物園で育て保護するものです。植物と昆虫や菌根菌などとの生物間相互作用などを考えると、野外で守ることが一番よいです。しかし、研究林内に点在し、場合によっては岩場や渓流沿いに生育するこれらの希少植物種を野外で守ることは困難な状況になっています。
 そこで域外保全は、緊急避難的処置として実施しています。 シカによる食害があり、緊急度が高く、比較的栽培が容易なゼンテイカ、タヌキラン、ヒメシャガ、コバノトンボソウ、タイミンガサから取り組んでいます。 2020年には芦生研究林の構内にも希少種植物園を開設し、ゼンテイカとタヌキランを栽培しています。 さらに希少種の生育状況調査も行っており、2018年にはフガクスズムシソウの生育(北近畿初)が確認されています。