京都大学 理学研究科
博士課程 福山 亮部
ニホンマムシは北海道から九州にかけて分布する約50cmの毒ヘビで、森林から田んぼ、人家近くまで幅広い環境に生息しています。一般的に本種は夜行性とされており、日中に活動するのは寒い時期や、体温を上げる必要がある妊娠中のメスなど、例外的な条件の時に限られると考えられてきました。しかし実際にはそれに限らない日中の観察例も多く、咬傷被害も昼夜を問わず起きています。本当にニホンマムシは夜行性なのでしょうか?その疑問を解き明かすため、野外のニホンマムシに電波発信機を取り付け、追跡し、いつどこで何をしているのかを昼夜を問わず確認することにしました。

図1. とぐろを巻いたニホンマムシ(Gloydius blomhoffii)
調査地にしたのは芦生研究林の軌道沿いの河川敷と森林です。河川敷は空がひらけており、開放的な一方、森林は木々に覆われ、地表も落ち葉や下層植生で覆われています。調査では9個体のニホンマムシを野外で捕獲し、電波発信機を取り付けたのち、元の場所に逃しました。その後電波を頼りに各個体を追跡し、数ヶ月に渡って記録をとりました。この発信機には温度を測る機能もあり、野外でのマムシの活動体温についても記録をとることができました。
合わせて9個体のニホンマムシについて計295回の記録をとったところ、昼夜共に多くの個体が出現していることがわかりました。出現には昼夜そのものの影響はなく、気温が有意に影響していることがわかりました。ニホンマムシは低温時には石の下や穴の中に隠れており、春や秋は寒い夜間の活動を避け、より暖かい日中の方が高い出現率を示すことが分かりました。一方、夏は気温が上がるため、昼夜どちらでも出現していました。実際に体温を見てみると、隠れている個体は出現している個体に比べ、体温変化が少なく、低温時でも比較的高い体温を維持できることもわかりました。また、調査地に設置した温度ロガーでも、地表部より地中の方が安定した温度変化を示しており、ニホンマムシが地中の穴に隠れることで体温調節をしている可能性が示唆されました。

図2:河川敷の石の下に隠れていたニホンマムシ

図3:月毎の出現率の推移
また、環境によっても出現率が異なり、森林では、河原よりも高い出現率を示しました。森林では落ち葉の色でニホンマムシが目立ちにくいため、捕食者などを避けるために隠れる必要性がなく、より高い出現率を示したと考えられます。

図4:森林の落ち葉の上でとぐろを巻くニホンマムシ
さらに各個体の移動距離や行動範囲についても調べたところ、1年のうち、8、9月に移動距離が長くなることもわかりました。しかしながら行動範囲は比較的狭く、行動圏は平均で1ヘクタール程度の範囲に収まりました。
本研究成果は、これまで主に夜行性だと考えられてきたニホンマムシが、実際には昼夜どちらでも活動する「周日行性」であることを示唆しています。この「周日行性」という概念は近年様々な分類群で報告されており、動物の活動性が古典的に考えられてきた「夜行性」、「昼行性」といった区分にとらわれず、環境や季節に応じて柔軟に変化するものであるという考え方が広まりつつあります。今回の結果は、ニホンマムシの生態を適切に理解するための重要な知見になるだけでなく、動物の活動性に流動性があるという近年のトレンドを補強するものでもあります。
また、ニホンマムシは強い毒を持ち、年間約3,000人の咬傷被害が発生していると推定されています。本種がいつ・どこで・何をしているかという本研究での知見は、マムシ咬傷被害を防止するための重要な基礎情報にもなります。
掲載論文
Fukuyama, R., Mori, A. (2025) Seasonal changes in movement patterns and body exposure frequencies of Mamushis (Gloydius blomhoffii) and their diurnal activity in a mountainous habitat of northeastern Kyoto, Japan. Journal of Herpetology 59(3): 172-178
DOI:https://doi.org/10.1670/23-065
