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研究ハイライト

モリアオガエル産卵フェノロジーの地域内変異

髙橋 華江(神戸大学理学研究科生物学専攻博士前期課程) 

2017.12.27

生物は他の生物と恒常的に関わっているわけではなく、その関係は季節的に変化します。産卵や開花といった生物の生活史イベントが起こる季節的なタイミング(フェノロジー)は、その生物が他の生物と関わりあう期間の長さや関わり合いの強さを決める要因としても重要です。

図1 それぞれの池における総卵塊数に対する、ある日に観察された卵塊数の累計した割合。凡例の括弧の中の数字は観察された卵塊数を表す。

同一の種であっても、生息地の標高や緯度などの地理的スケールに沿ってフェノロジーに変異があることは一般的ですが、一つの地域の中にもフェノロジーの変異があることはあまり知られていません。このような小さなフェノロジーの変異は、将来の局所的な気候変動に対する生物の応答を予測する上でも役に立つかもしれません。

図2 水辺に産卵するモリアオガエルと早速やってきたアカハライモリ

そこで私は、芦生研究林に生息するモリアオガエル (Rhacophorus arboreus) の産卵フェノロジーの地域内変異を定量化するため、野外観察を行いました。その結果、4つの集水域(櫃倉谷・幽仙谷・下谷・上谷)のうち、櫃倉谷と上谷では集水域内の池間で産卵タイミングが揃っていること、他の2つの集水域内では、隣り合う池でも産卵タイミングにずれが生じていることがわかりました。

産卵タイミングのピークは異なる集水域間で約17日、一つの集水域内の池間でさえ約8日も異なりました。さらに、産卵が時期的に集中した池ではオタマジャクシの体サイズのばらつきが小さくなることがわかりました。体サイズは、オタマジャクシ同士の競争関係や捕食者であるアカハライモリ(Cynops pyrrhogaster)からの食べられやすさにも影響を及ぼすため、親の産卵タイミングは子の生存率に影響することが示唆されました(Takahashi and Sato 2015)。

このような産卵フェノロジーのずれが、アカハライモリの移動パターンやオタマジャクシの生存率に与える影響についても実験を行っています。
梅雨の芦生を探索する時には、ぜひモリアオガエルの卵塊がないか探してみてください。

2016年2月16日

掲載論文

Takahashi K, Sato T (2015) Temporal and spatial variations in spawning of the forest green tree frog (Rhacophorus arboreus) in a mountainous area. Herpetol Notes 8:395–400.
http://www.biotaxa.org/hn/article/view/11163/0